山や野や川(未来山脈第319号より抜粋)
- 2016年1月16日
- 会員の作品
嬉しいのか辛いのかわからない今でも逝ったあなたと夢で連れ立つ
京都 毛利さち子
ズラリと並んだ道具にぞっこん 木工職人にもちょいと惚れ
岡谷 唯々野とみよ
私の目の前で餌をついばむ小鳥ふり上げた鍬がおろせない
箕輪 市川光男
辻々に立ち会場の案内をしてくれる医学生の肩に秋の陽が走る
大阪 鈴木養子
山の稜線に大きな秋月が輝く ガラス戸に映る私の姿は月うさぎ
伊那 金丸恵美子
隣家は壁いっぱいに二段の柿すだれ 私は五連をそっと吊るす
岡谷 花岡カヲル
柿一つ残せば木守り願うだけ それでも狙うカラスは一羽
小浜 川嶋和雄
花嫁修業の稽古花から六十年 体力の衰えにいけ花の潮時を考える
下諏訪 藤森静代
日本百名山蓼科山に登る 今日からは山ガール
下諏訪 青木利子
夕風に吹き飛ばされた枯葉たち お宮の隅で噂話をしているらし
横浜 上平正一
低空の編隊飛行ゴーっと響く 頭上を過ぎる身体が反る
茅野 こまつ極宙
流れ星を見ようと午前三時 北から南と南から北へ飛行機の点滅
諏訪 松澤久子
青草の牧場のかなたへ仔羊が迷い出て行き少年は走る
下諏訪 中西まさ子
ニホン晴 あべのハルカス展望台から俯瞰 デコボコ建物の大都会
大阪 與島利彦
今日もまた しっかり朝食を家族で食し 子を見送り 出勤準備を
鹿沼 田村ゆかり
髪を切ったらほめられた のぼせ上がったのが今は恥ずかしい
東京 堀江美菜子
ゆめとKIBOUは捨てちゃだめ天皇賞はカスリもしなかったけど
東京 鷹倉 健
四季をそれぞれに喜び八十四歳悲しみをたえ今言葉なく幸せ
諏訪 宮坂きみゑ
息子からユニークな化粧と衣装を着た孫の写メールに思わず吹き出す
米子 角田次代
うお魚分ける隔てがまな板と 知恵を授けて文学者がいる
諏訪 伊藤泰夫
諏訪湖畔の桜の紅葉は見事 雨後の舞い散る木の葉に立ち止まる
岡谷 宮澤己代子
雪のようにハラハラパラパラと松葉ひととき降りやまない
茅野 伊東里美子
庭に立てば山茶花が白く花をこぼし柊の花が匂う
岡山 廣常ひでを
右手小指を骨折した息子の横顔 帰り道は二人のため息だけ
諏訪 大野良恵
ぽちゃぽちゃでにっこり笑う顔を思い出す度いとしくて抱きたい孫
岡谷 武井美紀子
佐保川の草刈りも機械化 仕上がり綺麗でススキは消えた
奈良 庄司雅昭
掃き寄せる落葉の中に鎌をかまえて脅す蟷螂 秋色に体を染めて
岡谷 土橋妙子
秋の日の短いひととき 春秋と二度咲く四季桜 楚々と季節を楽しむ
岡谷 林朝子