太陽はいま(未来山脈第320号より抜粋)

 

体重計に乗ってみる小春日和 怠惰な夏と徒食の秋が長かった
松山 三好春冥

あべのハルカスからの夜景キラメク中四天王寺の境内は闇
大阪 井口文子

行進の最後ゆく女子九年間還暦過ぎてのっぽも縮む
一関 貝沼正子

うたの心にふれたくて学びたくて四年遅れて夜間高校へ
福知山 東山えい子

忘れた頃に友の声届き長電話に鍋こがす
天理 坂井康子

あかあおきいろ脱ぎ捨てた裸木に守り柿ひとつ 木枯らしを待つ
岡谷 伊藤久恵

散り残る楓と落葉松の黄葉を湖面に影のように映す 箕輪もみじ湖
岡谷 堀内昭子

晩秋の山肌を染める唐松や楓も色づき夕日に映えていっそう輝く
岡谷 林朝子

花梨の砂糖煮を作る 今年も虫糞だらけで芯まで食っている
飯田 中田多勢子

雨が降って嬉しい雨が降らなくて悲しい 百姓は弄ばれて
木曾 古田鏡三

裏門を出れば公孫樹の並木道 ようやく色づき黄金の街
水戸 及川かずえ

起きぬけに庭に立つと山茶花が雨に打たれて白く散り敷いている
岡山 廣常ひでを

こんなもの簡単だよと高括る自惚れこそが転落招く
仙台 田草川利晃

友との会話が楽しくなった補聴器 小さな器具が世を広くする
大阪 鈴木養子

やっと足の爪に鋏がはいる 痛痒のない枯枝切断
千曲 中村征子

南に向かう蝶の薄黄斑がわが家の藤袴に気付いてくれたこの奇跡
岡谷 柴宮みさ子

姪の結婚式は東京のビル二十七階 雨天でも会場の中は華やぐ
岡谷 横内静子

はるか眼下に広がる街のきらめき 高台に佇む宿は静かに暮れて
岡谷 三澤隆子

風邪の見舞いにガーベラ一本私に五歳のやさしさはほんのりピンク色
岡谷 武田幸子

病院から家に帰った母は存在しないかのような体の薄さに
岡谷 片倉嘉子

通りすがりに目にしたハロウィンの南瓜 渋柿ひとつを似せてみる
岡谷 金森綾子

急に冬が来ましたね 男体山も 白く模様替えをしてきました北に
鹿沼 田村ゆかり

どこを見てもわたし 大勢のわたしの叫び とうめいな空
小平 真條未成

飲めぬ否定はおいてポージョレヌーボーのロゼ冷蔵庫に眠らす
岡谷 土橋妙子

六十五万七千時間を生きてきた 宝石のようなときはあったか
岡谷 唯々野とみよ

想いを閉じ込めて年を重ねていってしまうのか六十一歳の私
鳥取 小田みく

踊りは藤桜会あやめの会文化祭おさらい会と一年に四回は参加する
岡谷 武井美紀子

今朝の霜はすごかったあとどれ位の命とバラも身震いしたろう
茅野 伊東里美子

ボケたくないと言い続けた故母 最期までわがままを貫く
下諏訪 青木利子

電車に乗るバスに乗るスマホの行列ばかり 個人個人自由だからね 静かでいい
茅野 名取千代子

焼きたてアップルパイから薫るシナモン異国で見た夕焼け懐かしい
京都 毛利さち子

ネクタイ締めて背広姿の男の人を美しいとおもう
琴浦 大谷陽子

昨年と同じ反省 去年も今年もお見渡り無し
諏訪 宮坂千佳代

諏訪に帰って 散歩に行ったり足湯に行ったり自然を満喫
神戸 佐倉玲子

体から異臭を吐き出す 今日からうまくいくような気がする
東京 中村千

渦巻くように年が過ぎる 一つの輪で括れない一年が終わりまた始まる
伊那 金丸恵美子

宗教には立派な仏像も伽藍も権威もいらない仏性だけが有れば良い
大田原 鈴木和雄