太陽はいま(未来山脈第322号より抜粋)

人よりも上着一枚少なくて手をつなぎながら歩く二人

諏訪 藤森あゆ美

一日の区切れとしてノートの紙きれを花びらのように注ぐ
札幌 西沢賢造

この頃は町の灯りを見てほっとする田舎暮らしの反面教師
愛知 川瀬すみ子

雑草のような恋でした 堀の隙間で詠み人知らず
小平 真篠未成

雪のないお正月 過ごし良いが秀峰泰山の雪景色の無いのはさびしい
米子 笹鹿啓子

石叩きが氷をたたいていつものリズムをこわしてしまった
横浜 上平正一

何かしら涙があふれて天井見ていたら 頑張っているね笑顔で母が
福知山 東山えい子

晩酌の量過ぎたればうたた寝の歌よみ浪人老の自画像
豊丘 毛涯潤

過去とは何だろう苦しみなのか自棄なのか心に聞いてみる
木曾 古田鏡三

夜八時 宴会場から五分のわが家に夫が帰らない 道に迷ったのだ
飯田 中田多勢子

あの笑顔は二度と戻ってはこない
東京 狩野和紀

介護予防体操の会場 若大アカデミー四十分かかる
水戸 及川かずえ

このまま歩けなくなったらどうしよう 大丈夫私が居るからと妻
箕輪 市川光男

誘われて友人の家へ 百号の油絵の大作に取り組む友の頑張りに声を失う
さいたま 山岸花江

愛だってどかっと来たら困るよね 重い雪に四苦八苦
岡谷 唯々野とみよ

妹の愛洗結婚式その娘二人の幼児洗礼そして私の夫の葬儀もあった
東京 保坂妙子

雪を被った山におぼろ月が浮かぶ 春は遠くて近くに息吹き惑わす
伊那 金丸恵美子

スマホ片手に自転車に乗る若者とニアミス転んで強かに背中を打つ
岡谷 佐藤静枝

パッチワークのように作るお手玉 縫いながら頭の中は母でいっぱい
茅野 伊東里美子

塩嶺おろしかビル風か 病院の正面に冷たい風が吹きすさぶ
岡谷 片倉嘉子

桃紅色の小鳥が藪にちらちら 遠目でもわくわくするオオマシコ
岡谷 柴宮みさ子

ずっとずっと待っていた金の成る木の天辺に淡いピンクの花ひとつ
岡谷 金森綾子

四年ぶり日本で正月の息子らに伝統おせちを手作りしてやりたい
岡谷 三澤隆子

張りつめた糸がプツンと切れた それを手繰り寄せてそっと結ぶ
岡谷 横内静子

元旦に盆栽の梅二輪咲く暖冬にすなおに誘われて
岡谷 武田幸子

長引く断水ふり続く雪 心身衰え独居の淋しさ知る
米子 永井悦子

初雪に児らの声はなく振り積もる雪 眺めるは寡黙な老ふたり
下諏訪 藤森静代

朝日浴び煌めく霧氷の中をゆくきれい以外の言葉を忘れて
北九州 大内美智子

意地悪なあなたの手口共犯になれずに振れるわがポリグラフ
青森 木村美映

天竜の川べりに集う鴨の群れ 中央に白サギ一羽凛と立つ
岡谷 花岡カヲル

縁側のゼラニュウム咲き次ぐ真っ赤な花寒さに耐えて
岡山 廣常ひでを

インコのピーちゃん 初産は失敗 卵は一個も孵化せずかわいそう
米子 稲田寿子

みんみん蝉のふたつなく屋敷林のある旧家 十年前そして今日
川越 梅澤鳳舞

解禁だ 渓流釣りがまた出来る 今年は何匹釣れるかな
松本 下沢統馬

男前の顔だけど笑うとかわいいと言われ今日もニコニコしている
東京 堀江美菜子

温暖化に三年連続御紙渡は期待はずれ「明の湖」とは如何
岡谷 今井正文

情熱を持ってのり切る事が出来るか最後の決断に胸がいたむ
岡谷 三枝弓子

ドンと冷気の塊が落ちてきた 日和見主義者のくしゃみが凍る
松山 三好春冥