山や野や川(未来山脈第323号より抜粋)
- 2016年5月24日
- 会員の作品
家電店に入るのは何年ぶりだろう カードが無くてもお客様です
松山 三好春冥
臥っていてもベル容赦なく鳴る御柱祭寄付集めの大名行列
諏訪 河西巳恵子
単身赴任の夫との旅その春もふらりと乗った紀勢本線
札幌 石井としえ
AKBが歌う朝ドラはまた明日も見たくなる 録画も予約
下諏訪 青木利子
いい季節になりましたね なじみの挨拶がしづらくなった
奈良 木下忠彦
光がまぶしい白が怖い波うつ痛み壊れてゆくこわれてゆく心も身体も
諏訪 松沢葉子
奥さんが診るのは限界です施設を考えなさいと医師
福知山 東山えい子
太い箍のかかった漬物桶 出番もなくドッカリ小屋に居座る
諏訪 百瀬町子
湖遥か遠く姿ととのえた富士は白いベールで春を舞う
岡谷 土橋妙子
ぐつぐつ煮立っている鍋焼きうどん 待った甲斐があった
飯田 中田多勢子
芽が出た出た出た芽がでた何の芽だ大地を割ってチューリップの芽が
諏訪 伊藤泰夫
姉の入院の報実家より届く 風もない深い空は沈黙を守って
さいたま 山岸花江
一歩でも歩かなければといい聞かせて四時三十分の私の散歩
水戸 及川かずえ
友が元気なら昔のように話せるのに春の陽ざしとウォーキング
茅野 伊東里美子
川土手につくしが頭を出した一日と言わず時とともに成長している
米子 稲田寿子
ピカピカの新入生が桜の道を登ってくっる年取った私はゆっくり下る
箕輪 市川光男
君を支える気持ちは皆同じ格好なんか気にすんな甘えればいいんだ
仙台 田草川利晃
とうとう我家にもインフルエンザがでてきて さあ大変なのです
鹿沼 田村ゆかり
青木ヶ原の樹海を過ぎて間もなく朝霧高原 残雪残る二月二十七日昼下がり
東京 鷹倉健
怪我をして自宅療養一月半 虚しくてやりきれなくても季節は巡る
岡谷 佐藤静枝
お久し振り まだ勤めてらっしゃるの P化粧品販売員から電話
下諏訪 須賀まさ子
雪にもめげずちょうどいま親指の先ほどの青い実をしっかり握ったびわの木
東京 保坂妙子
デイサービスの書道の時間 筆を運ぶ顔はみな若返っている
大阪 鈴木養子
あの日あの時は心配してくださったと感謝の手紙が来た震災五年目宮城県の友
岡谷 宮澤巳代子
シニア女性三千人ホールに集まる皆同じ背格好に見える錯覚
天理 坂井康子
サンゴの白砂に埋もれながら歩く幼心いっぱいの素足
岡谷 武田幸子
いまも刺せずにいる桧垣の柄を雪ずり落ちた石垣に見る
岡谷 金森綾子
濃い桃色のふっくらとしたつぼみのままひな祭りの桃はいまだ開かず
岡谷 片倉嘉子
酸素マスクをしている義母はわたしに手文字を書いて伝える
岡谷 横内静子
物言うキャスターコメンテーターが消えて報道番組は縮こまる
岡谷 柴宮みさ子
さくら咲き里山の色彩あざやかに生きものらの目覚めのとき
松本 下沢統馬
四十七都道府県から選ばれた学校が出場の高校野球も百年の歴史
琴浦 大谷陽子
諏訪大社御柱祭は抽籤でふさわしい御柱になったか 地元が震える
諏訪 浅野紀子
北アルプスの真白き峰に寒の満月 明けやらぬ空の青さにくっきりと
岡谷 三澤隆子
たんぽぽの綿毛が港の船にふる豊かな運河の想いに消える
青森 工藤ちよ
二月の鉛色の空は低く垂れ込め気を圧迫する 息がくるしい
岡谷 三枝弓子