右手左手 (未来山脈第324号より抜粋)

リハーサルも今日の準備も託した役員の顔が無言で私見守る
岡谷 三枝弓子

大茶園を展望台より俯瞰すれば縦横斜めの畝もよう
北九州 大内美智子

膝を鍛えサポーターでしっかりガード 山登りを続けたい
米子 安田和子

美しい花束が墓に 思い当たる女(ひと)有って不覚にも妻のやきもち
鳥取 小田みく

人の行く裏にこそ有る花の山 耐えてきた者だけが知る理
仙台 綱尾守

東北の桜便りメールにて東京の友に送る雪山の下の桜もまた美しいと
東京 鷹倉健

甥夫婦に長男が授かる じじばばも名前選びに加えてもらう
岡谷 佐藤静枝

思いついたが吉日でその日のうちにやらないと翌日は大雪で部屋から出られない
川越 梅澤鳳舞

久しぶりに抹茶をいただく 紅白の紙ボタンに金屏風の敬老会
琴浦 大谷陽子

夕日の届かない水路では 餌待ちの鯉たちが我々の足音に騒ぐ
奈良 庄司雅昭

価値観が違うかと思う若い人と話してみれば同感の人が多い教会
東京 保坂妙子

雪が消えた落葉や黒土を日毎に持ちあげる草花の生きる力
諏訪 松澤久子

雑巾一枚を優しく絞る心使い自由なき身の上の絆に底は無い
東京 狩野和紀

畑に顔を出した蕗のとうをふき味噌で この苦さが食欲をそそる
岡谷 林朝子

暖冬にすぎたこの春は桜前線北上中に庭の梅いちりん咲いて
原 柏原都志

氷がとけ湖面を泳ぐ鴨の群れをやわらかくつつむ春の陽ざし
原 桜井貴美代

鳥や花に小さく声をかける孫 もう春ですよといくどもいくども
原 江崎恵子

セツブンソウ背筋伸ばして顔上げて皆いっせいに踊り出す
原 森樹ひかる

終の住処にとホーム選んだ友 ここでもう少し生きようと微笑む
岡谷 堀内昭子

春を唄うスノードロップの花 風がほほをなでリズムで踊る
岡谷 伊藤久恵

友達に刺激されジーパンが欲しいという中二の息子はお年頃
諏訪 大野良恵

歌誌とコーヒー持って縁側へさあ歌の勉強眼鏡はどこだ
岡山 廣常ひでを

おにぎりをほおばっている開演前ロビーはほのかな期待に満ちて
札幌 石井としえ

首も座り笑ったり手あそびしてすくすく 生後百日の長男
神戸 佐倉玲子

夜九時に寝て朝六時半に起き白黒つけずに過ごす生活
東京 金澤和剛

子どもきやり隊の娘次女はめきめきと上達して楽しみな御柱祭の本番
諏訪 浅野紀子

左手にリンゴ右手にバナナ 食べたいから一度に頬張る
下諏訪 青木利子

ヒヤヒヤとハラハラしながら御柱の神を守り見つめる御柱祭
茅野 名取千代子

可愛い幼児から少女の顔になった華江 服も鞄もピンクできめて
さいたま 山岸花江

出てみると両杖で歩行している一人の老人 七千歩の友と申年を語り合う
長野 増田隆

一年ぶりに届いた未来山脈には御柱の歌ばかり 六年前とは想像つかない今
滋賀 岩下元啓

桜の樹の下で三線ひいて春を謳歌するカップルに赤い夕陽射す
大阪 山﨑輝男

誰しもが 乗り越えなければならない壁 自分を信じて いざ受験
松本 下沢実乃里

にわかに怒りだす性癖の君に似ている承知川 私はしぶしぶ承知する
下諏訪 光本恵子