山や野や川(未来山脈第328号より抜粋)
- 2016年10月4日
- 会員の作品
ちぐはぐになってしまった心と体とうとう所有者ではなくなった
諏訪 藤森あゆ美
あったかくなったなえの声が聞ける三月畑の雪も解けだした
箕輪 市川光男
一本の電話で変わらぬ政治でも思いのままにさせたくなくて
札幌 石井としえ
皆で作り上げ精一杯の演奏をする コンドルは大空へ羽ばたいた
岡谷 片倉嘉子
青紫のチェストベリーのっぽの鉄砲百合 日がな一日咲具合を見る
岡谷 柴宮みさ子
お互いに髪染のあと図らずも出会う妹と甘いコーヒー
岡谷 金森綾子
漸く手にしたチケット初めての歌舞伎に浮く心 たとえ三階席でも
岡谷 三澤隆子
頭を押し上げて眼見開き夏の大三角形を探す七夕の日
岡谷 横内静子
女声の透明なハーモニーがホールの隅々まで 背中まで震える
岡谷 武田幸子
各国の正史には何がしかの隠蔽棄却改窮が見られると
藤沢 篠原哲郎
うれしいことは朝採りの夏野菜を使ってつくる朝食づくり
坂城 宮原志津子
単身赴任の父帰り今夜はずっと傍を離れない十歳の孫娘
東京 保坂妙子
漠と海外で一旗を 夢は夢として家業を継ぐ
奈良 木下忠彦
お気に入りの花のワンピースは手でもみ洗い 十年は新品のまま
下諏訪 青木利子
俊行様よ 友啓様と博子様のめにいれてもいたくないほどのこども
鹿沼 田村右品
無意識のまま地震の後タクシーにのせた文箱には一枚の写真
水戸 及川かずえ
本棚に並んだ本のタイトルにその人柄の本質を知る
仙台 田草川利晃
炎天下必至で歩く遍路みち願うは子供の幸せひとつ
北九州 大内美智子
去年十一月二十二日朝春雄から電話「癌になった」あとは聴き取れない
東京 鷹倉健
八月のカレンダーはタイの青い海 手招きされ心はビーチへひとっとび
諏訪 大野良恵
黄鉄鉱 僕らの生きている意味の工業価値の低い輝き
東京 金澤和剛
鳩がポッポ歩いているのは赤い脚 右に左に左に右に
大阪 笠原マヒト
花の色や香りで人をひきつけるカサブランカ 自己主張が強い
米子 稲田寿子
夫婦で世界クルーズ一〇四日 船旅の感動語る友の瞳輝く
大阪 山﨑輝男
待っていた六月からの月一歌舞伎 はてさて今年は何回観れるやら
鳥取 小田みく
雑草というひと括り露草の澄みとおる青ひきぬいてゆく
諏訪 松沢葉子
近づくなスパイにされて逃げられぬ そこは任せよ人工衛星に
下諏訪 小島啓一
家を離れて十年 小さな声でただいまという静かな空間
茅野 こまつ極宙
灼熱の土の中に蝉の声が染み込んで行く 夏の或る一日古川寺にて
伊那 金丸恵美子
恋愛の免許を持たず生きてきてスピード違反の切符を切られる
青森 木村美映
ひと里離れた庵の珈琲は深く くれないの蓮の花に命のばす
諏訪 関アツ子