太陽はいま(未来山脈第329号より抜粋)

 

子のために祈ることしか出来ぬ母は遍路となってススキ路を行く
北九州 大内美智子

忍びがいようが誰かが暗躍しようがこの道はまっすぐに伸びている
群馬 剣持政幸

みなさんで仲良く楽しくやりましょう? いやいや仮にも文学である
下諏訪 中西まさこ

夏のつかれが見える百日紅 季節が動いてトンボが行き交う
茅野 伊東里美子

年毎に払っても払っても脳天に突き刺さってくる八月の直射よ
横浜 上平正一

四百メートルリレーで銀メダル リオオリンピックから朝五時の感動
下諏訪 青木利子

あじさいの藍がきわだち雨をたっぷり含んだ花毬の生命力
諏訪 百瀬町子

台風が四つ 太平洋の島国は良い面も 悪い面も受け止めている
東京 上村茗

無理して買った五〇冊 この本はあの世でゆっくり読もうか
木曾 古田鏡三

大鷲が六斗川土手のねずみをためて小和田上空を旋回する
諏訪 宮坂きみゑ

人の明け暮れは他人様あってのお陰一人ぽっちでは生きてゆけない
藤沢 篠原哲郎

夏が行く最後の叔父が行く 記録が塗り替えられる新しい夏
千曲 中村征子

水撒きをすれば慌てる青蛙 隠れた姿また見せ逃げる
小浜 川嶋和雄

まだまだ赤ちゃんと思っていた孫が来春ピカピカの一年生なのです
鹿沼 田村ゆかり

くつ底の熱気を払って大観衆の整列のない歓声が轟くここはどこ
藤井寺 近山紘

のびあがりのびあがりして大根は山を見ている湖を見ている
岡谷 唯々野とみよ

藤村の「名も知らぬ遠き島……椰子の実」は 不朽の名歌!
大阪 與島利彦

満開の朝顔は大雨に打たれトランペットになりブルー奏でる
諏訪 松澤久子

縁側から眺める前山の木々のみどりが天を支えて沸きたつ
岡山 廣常ひでを

花オクラは畑の女王さま 黄色い花でお日様に当ると開く
飯田 中田多勢子

ずっとむかし 星祭りの日に出会い片思いして別れた人
鳥取 小田みく

七夕に願いをありったけ 最後は宝くじ当りますように
岡谷 武田幸子

「とと姉」の暮らしの手帳版が私にも ぶりてきのページの染みよ
岡谷 金森綾子

三か月ぶりに会った友は子を亡くした哀しみに一回り小さくなった
岡谷 片倉嘉子

風になびく黄金のおんべ 娘たちの木遣りに祭りが盛り上がる
諏訪 浅野紀子

保津峡を黙々歩いて二万五千歩 保津川下りの船を横目に
大阪 山﨑輝男

定期的に行っていた脳ドックで思いがけない腫瘍を発見
米子 稲田寿子

大逆転で内村航平選手の金 採点は「公平」と銀と銅の選手はきっぱり
岡谷 柴宮みさ子

両手にあふれる水で顔を洗うザブザブと 素手の感触六週間ぶり
岡谷 三澤隆子

朝から疲れを引きずって沈黙の二人 家事分担する音が聞こえる
岡谷 横内静子

風にのって遠く近く祭りの音 熱いコーヒーすすりながら聞いている
諏訪 松沢葉子

一枚のブランケットになりきれず時折混じる言葉のナイフ
青森 木村美映