右手左手(未来山脈第330号より抜粋)
- 2016年12月4日
- 会員の作品
元旦の狼煙から始まり容赦なく過ぎた山麓に静かなひととき
群馬 剣持政幸
落ちた箱から飛び出す綿棒 何百本もの方向へ散らばる
諏訪 藤森あゆ美
蠟燭は吹き消さずおくはつあきの葡萄棚には海があふれて
青森 木村美映
太平洋戦争なる異国の史観で自国の戦史を曖昧にはしないで
藤沢 篠原哲郎
季節の移ろい 朝夕冷え込み裏山のもみじも赤く色づいて
諏訪 上條富子
東京のあれやこれやにうんざり 首都の傲りが国中を騒がせる
岡谷 唯々野とみよ
朽ち果て倒れたもみじの先に彼岸花咲く 色を添える寺の庭
岡谷 花岡カヲル
我が身より孫や亭主の秋衣料妻の目線は常に家族を
諏訪 伊藤泰夫
テレビがあったならと早死にを嘆く 土俵の向こうに亡父の顔が見える
大阪 鈴木養子
衿元にひっそりと冷気忍び来て水戸の歌友より豊水の梨
水戸 及川かずえ
雄二様 友啓様と博子様のとてもかわいいこどもですしんじつに
鹿沼 田沼右品
「ええェ七十代そんな年齢にみえないよ」の言葉に五十歳の気分の私
米子 安田和子
台風の寄り道で屋根の大修理との便り実家から
東京 狩野和紀
数台の車を止めて頭を低く罪人のように急ぐゼブラゾーン
岡谷 土橋妙子
現実に戻ればいつも沖縄、福島きれいな青空見とれていつも
札幌 石井としえ
慕う先輩を所さんの代わりに守らねばと己が試練あり
仙台 田草川利晃
長雨で伸び放題の元気な芝生 芝見失う玉 苦難のゴルフ
原 桜井貴美代
御巣鷹に今年も登る人 あの日わたしは三歳の娘と浜名湖にいた
原 江崎恵子
激しい雨で目を覚ます 私も祖母が亡くなった歳を迎えた
原 泉ののか
屋根をたたく雨 雨樋からの水音 台風の通り過ぎるを身を縮めてまつ
原 柏原都志
今日もまだ雨が続いている 庭に突如大きなキノコが出現する
原 森樹ひかる
かばんを提げて里へ帰るという妻 痴呆になっても里は忘れず
岡山 廣常ひでを
午前六時に起きると坂本さんが着替えの手伝いをしてくださる
琴浦 大谷陽子
目ぱちぱち思いがけないシチュエーション 自分の型が判る瞬間
東京 中村千
一気にたくさん歯が生えてきた男児0歳九ヶ月 上に四本下に二本
東京 佐倉玲奈
曇り空やはり降るのか雨ぽつり 雲は重たく基地暗くする
諏訪 こまつ極宙
目覚ましの朝を知らせる音が今日も夢からわたしを引き戻す
松本 下沢実乃里
四肢を欠く選手がタオルをかみしめてスタートを待つ競泳種目
神戸 粟島遥
小会社に思惑あまた蠢きてたちまちわたしは透明になる
京都 岸本和子
運動会の席とりに朝四時から並ぶ親バカ 何か変
大阪 山﨑輝男
一番目の箱を開くと次の箱も気になる 好奇心と欲望が渦を巻く
伊那 金丸恵美子
連勤の明け方 まだ白い街に銀の卵を孵すように眠る
小平 真篠未成
色ちがいの同じバッグに立ちすくむ彼女と私の自意識過剰
下諏訪 中西まさこ
遠く離れた星を探すように夫婦松をめざしのぼってゆく
下諏訪 光本恵子