急行列車(未来山脈第337号より抜粋)

宮崎師から貰った仙人掌真っ赤に一つ 一に口語で自由律でな と咲く
大阪 井口文子

玄関にすらりと立ったお嬢さん ワクワクしながら招き入れる
下諏訪 笠原真由美

いつもぎりぎりの綱渡り人生 幸運だけは寄り添ってくれた
諏訪 関アツ子

あと何年この空気を吸えるか 目覚めた一人の自分にきく午前三時
さいたま 山岸花江

九十で老師は逝った 意気地のない… 宮崎信義は九十六歳十ヶ月まで生きたというのに
長野 岩下元啓

残雪の八ヶ岳は遠く川辺を染める黄の花 春の水面は凪ぎ
岡谷 土橋妙子

一緒に鹿島槍に登ろうよあなたなら大丈夫 登りたい でも
奈良 木下忠彦

こんなにも痩せっぽちだったのか十代半ばフランス衿のセーラー服
諏訪 河西巳恵子

長い廊下を杖をついて娘について行くのがやっと 妻の病室へ
岡山 廣常ひでを

田圃七枚にソーラーパネル 家の前のながめは一変するだろうな
茅野 伊東里美子

爆笑しながら沢山話す この輪を大切にしたい
東京 堀江美菜子

作業もんぺ地下足袋を履きお茶菓子を持てば畑への支度が整った
飯田 中田多勢子

来賓の祝辞に間に合うようにして桜は満開に 新入生諸君おめでとう
茨城 赤木恵

自転車で慣れない知らない道をゆく 新しいスタート切った高一の息子
諏訪 大野良恵

四月五月は私にとって血沸き肉躍る季節の到来 ワラビ採りの始まり
米子 稲田寿子

夕日を着飾り春のさざなみがおしよせてくる鎌倉の浜辺
横浜 上平正一

待っても待っても天候不順 春行きの列車は遅れています
諏訪 百瀬町子

店のない集落残した閉山後 集落さえない原発事故後
札幌 石井としえ

楽しい電話かけ合った染の旧友ことわりもなく 二週間後に永遠の別れ
水戸 及川かずえ

ピンピンコロリを目指した月一回の男性の集いが始まる
米子 角田次代

トランポリン楽しそう天理駅前広場にはじける子供らの声
天理 坂井康子

底冷えの京の寒気を切り裂いて禅寺の木々 空を突き刺す
京都 岸本和子

白い小花と緑濃いつややかな葉 安曇野の清流にわさび田ゆれる
岡谷 三澤隆子

時間の使い方は自分の命の使い方 つまらなく使わないと尼僧説く
岡谷 武田幸子

色とりどりのビオラを掘り起こし持ち帰る我家に春を呼び込む花
岡谷 横内静子

五時に流れる「家路」のメロディ 仕事の区切りをつけて夕餉の支度へ
岡谷 片倉嘉子

ジャンケンゲームで脳の活性化 勝っても負けても笑い声が立つ
岡谷 金森綾子

桜の樹の下で準備体操 身を反らす度に初花一輪と見つめ合う
岡谷 柴宮みさ子

大山を望み潮の香りも五月晴れ 戸板の上で境港サーモンが跳ねる
境港 永井悦子

一年中回覧をくばり集め 神社の奉仕は朝から朝まで短歌と云えば笑われて
木曽 古田鏡三

藻の餌を撒けば食いつくあと鴨の一羽が次の餌を待つ
青森 工藤ちよ

滞在を一日のばしてアメ横のカプセルホテルのバイキングに並ぶ
青森 木村美映

大層なことほど心が震えてパーティ果てた後の膝の震えが止まらない
京都 毛利さち子

小さな緑の二葉が春を待ちかねて土を押し上げ顔を見せている少し
藤井寺 近山紘