流域(未来山脈第339号より抜粋)

指先すべらせてストッキングぬぐ すべて開放されたような
岡谷 三枝弓子

朝起きるとすぐに明後日歯医者へ持って行く菓子を包む忘れない様に
大田原 鈴木和雄

有松の絞りの浴衣を身に纏い包まれている綿の優しさ
諏訪 藤森あゆ美

半べそかいて両膝にすり傷負った次女 自分で洗ってガーゼを貼る
諏訪 浅野紀子

兵庫県加古川に住む娘の児ふみの宮参り七月一日梅雨の合間
岡谷 武井美紀子

五千人の街の巨大客船が平和の絆結びに世界各地へ
大阪 山崎輝男

ふるさとに居るだけの人間にも古里はある 今年も咲いた二輪草
木曽 古田鏡三

朝早くさえずる鳥たちその賑やかさが心地良く眠気をさます
諏訪 宮坂夏枝

雨上がりの青空に残雪の山が映える ああもう鳥になりたい
箕輪 市川光男

梅雨の合間に夫と山で水を汲む 鎮まる今年の御柱古道
下諏訪 藤森静代

祖父母の参観日の案内たより届く いそいそとフェリーに揺られて壱岐へ
米子 笹鹿啓子

捏ねて包んで蒸す みんなで作ったおやき暑い時でもおいしい
茅野 伊東里美子

伸びる草のはやさ 朝から草刈りの音がひびく
諏訪 上条富子

六月9日夜半外にでる 中天に小さな満月ストロベリームーン
岡谷 花岡カヲル

小学校調理クラブのお手伝い古希を過ぎて思いがけない出会い
岡谷 佐藤静枝

下諏訪は母の実家のある町だ 正午になると流れるオルゴールの音色
松本 下沢統馬

ブランコがとても上手になった一歳六ヶ月の息子
流山 佐倉玲奈

おいしい鮭の昼食 何でも食べて短歌を詠んで新聞読む日々
琴浦 大谷陽子

人づてに伝わってくるツイートに「いいね」を打たずやり過ごしている
青森 木村美映

窓下に小さなお部屋六角形 一緒に住めないごめん蜂さん
原 太田則子

目覚めるとゴーゴーざわざわ風の音 不安かかえて病院へ
原 桜井貴美代

野薔薇が咲いた 小さな花ほわりとつけて初夏を飾る
原 泉ののか

詩人歌人の資料飾り 電光板などなく富士見駅 趣があります
原 森樹ひかる

紫のちどり草と真っ白のオルレア心なごめる畑仕事のあとの一時
原 柏原とし

野原洋一君 鹿沼市高等学校と宇大をりっぱにごそつぎょうなさる
鹿沼 田村右品

今日は父の日男性の後姿ばかり六頁も載る今朝の新聞 頑張る姿
岡谷 堀内昭子

くりくり頭の高校生 休暇も登校「おはよう」爽やかな風通りすぎる
岡谷 林朝子

梅雨の晴れ間に地面を埋める 数えられない枇杷の実一つひとつ
千曲 中村征子

国会や国政に係わる枢要な場での不誠実な逃げ口上の政府筋
藤沢 篠原哲郎

つい主婦の本性が出る 水屋に流れる気を汚す
下諏訪 中西まさこ

五十回忌で初めて父の遺言を口にした長兄 人生一番重い荷おろす
米子 大塚典子