急行列車(未来山脈第344号より抜粋)
- 2018年2月2日
- 会員の作品
年賀状手書きにて一〇〇枚それぞれの宛名をゆっくり書いてゆく
諏訪 藤森あゆ美
袋にどっさり詰めたお徳用 一人で食べ切れないものは買えない
松山 三好春冥
「幸せなのでうたを詠まなくなりました」と手紙にある オレンジにそっと口づけする
小平 真篠未成
夜半の月まるければ豊かさを星多ければ幸せと思ういち日の終わり
岡谷 三枝弓子
寒いっ 来ない電気屋 ロボットもいずれ寒いの暑いのと言うだろう
千曲 中村征子
秋を引き寄せた雨一気に冬の人口に一日一日が小走りにゆく
諏訪 百瀬町子
まるで鳩に餌をやっているような感じ七匹の狸が私に集まる
箕輪 市川光男
教会の庭に実る石榴の赤に懐旧の温もり抱く私の秋
大阪 高木邑子
一枚のセーターに思案する女 真赤なコートのマヌカンが笑う
岡谷 土橋妙子
西駒へとヘリコプターが飛ぶ 避難救助に向かうのか 風花が舞う
伊那 金丸恵美子
長引く秋雨霧の中旅に出る 錦の樹々もうなだれて
原 桜井貴美代
「晴れてても蜆の好きそうな色だよね」娘がぽそっと宍道湖通過
愛知 川瀬すみ子
不意にくる電話アンケートよどみなく五つのことに応えを強いる
一関 貝沼正子
これ知ってる! できる! できた! 経験があなたを作る
流山 佐倉玲奈
曼珠沙華 咲く野の道の野仏に童が供えたかあめ玉一つ
京都 岸本和子
紫陽花は反省しない 責める人の胸にあるのは自分の痛み
下諏訪 笠原真由美
一陣の風が吹きすさび空から一斉に葉っぱたちが降ってきた
原 森樹ひかる
スプーンに入りきらない薬 制約ある夫に食べるたのしみあれこれ創作
米子 大塚典子
遠慮しながら生きて来た男やねんと身勝手な人生をトツトツと語る
藤井寺 近山紘
「お城学者加藤理文さんとめぐる米子城」に参加する
米子 安田和子
だれしもが求めてやまぬ青い鳥ジングルベルを厳かに聞く
諏訪 伊藤泰夫
朝から肌寒い 薄れた痛みも季節を知っているのか痛さが残る
さいたま 山岸花江
玄関前の花みずき春は花を愛で夏繁った葉も散って明るくなったが淋しい
東京 保坂妙子
ちぎれ雲が太陽を覆うて急に寒くなる雲よ行け早く行け
岡山 廣常ひでを
火鉢で暖とり女工さんの来店待つ父 我が家は田舎の小さな百貨店
下諏訪 藤森静代
すりきれるほど自由に遊べよ 息子を亡くして妻を介護しつくした君
奈良 木下忠彦
地にはなすと育つミニバラ 冬の庭に可憐な小花咲かせて
茅野 伊東里美子
八十年生かされて来て気付きたり 鍵穴が古墳の形前方後円墳
長野豊丘 毛涯潤
この一年朗読に心血を注いだ年だった ちょっぴり大袈裟に思ってみる
下諏訪 須賀まさ子
腰痛で車いすの人になった母 大豆の莢放置したまま入院
群馬 剣持政幸
目を瞑ったら古い体が消えて透明になった きれいだ
岡谷 唯々野とみよ
ぐっすりと good sleep 傷ついた日の夜ほどなお深く深く
東京 金澤和剛
豆腐屋のオヤジが酒で死んだとういう今宵は湯豆腐で献杯か
青森 木村美映
寒桜に添われて遠まわり凩がホレホレと笑って吹き荒れる
諏訪 関アツ子