流域(未来山脈第346号より抜粋)

どこまで生きられるのか老残の命を口語自由律短歌でしめしたい
大阪 井口文子

寒椿寒気寒波の列島下我れに奮起を促してさいている
諏訪 伊藤泰夫

山が描けるか風や水が 宮崎信義の歌碑に花弁のような雪が舞う
岡谷 三枝弓子

生命線 頭脳線 お笑い線延びて なにがなんだか超高齢
諏訪 河西巳恵子

いま歌集を開く 生きぬいた生命がそこに有る古里がある
木曽 古田鏡三

セーリと歌いはじめてナズナにつなげ春の七草幼に教える長老は
米子 大塚典子

山稜の雪雲は去りベランダに積もった雪に屋根の水滴
札幌 西沢賢造

ほどほどであれば風情もある雪も雨もこうも続くと愚痴がでる
米子 角田次代

仙丈ケ岳に日が顔を出してきた草は刈ったし野菜も採ったさあ帰ろう
箕輪 市川光男

亡くなった義母の二十五回忌にお案内が菩提寺より届く
米子 笹鹿啓子

手のひらに雑煮椀のぬくもり 新しい気持ちで一年を始める
岡谷 片倉嘉子

鵟が狙いを定めて急降下 獲物を逃すやきまり悪気に飛び立つ
岡谷 柴宮みさ子

女三人大口でポップコーンをキャッチ きゃあきゃあ児らと弾ける
岡谷 金森綾子

木肌色の幹をみつめる静かな時間 小枝の先にヤマガラあそぶ
茅野 伊東里美子

送る身も行く身も寒さの堪える朝 定年過ぎての早い出勤
岡谷 佐藤静枝

合格はスタート位置に立てた所足元をしっかり固めてと言う
諏訪 浅野紀子

脚が弱くなった 部落を一周する 杖をついて一歩一歩
岡山 廣常ひでを

毎日が淡々と過ぎる 身体のどこかに潜む不安感
天理 坂井康子

安部龍太郎「おんなの城」を読む戦国時代に生きた女の面白さ堪能
琴浦 大谷陽子

土蔵の中 コンテナに並んだりんご「ふじ」氷みたいに冷たい
坂城 宮原志津子

光あふれて庵にて世相を語る菩薩とも思える寂聴の笑み
岡谷 土橋妙子

全てをさらけだすことは出来ない 人と自分を傷つけるから
東京 堀江美菜子

ハテハテ こんな道あったっけ雪の杖が迷い込む見知らぬ世界
千曲 中村征子

北北東寒冷前線通るらし ボタン雪かなすごく重そう
小浜 川嶋和雄

霧がかかったようで晴れない思い見放した一つ一つが重く蘇える
京都 毛利さち子

街へ行くのに「病院前」で降りそうになる パブロフの犬だ
愛知 川瀬すみ子

幸せになるための嘘は罪ですか 生き抜くための嘘は罪ですか 晩鐘が鳴る
小平 真篠未成

「おばあちゃん食事」と姑を呼んだが今は夫を「お爺さん」という
諏訪 松澤久子

心病んでないかよく眠れるか 話す相手はわたしでいいのか
富田林 木村安夜子

未来山脈特集の「夏雲」を読む 中間の遺骨を持ち帰る惨い歌
茨城 赤木恵

四月は旅立ちの月である どこかで桜がさいている
青谷 木村草弥

雪雲が覆う南の街に安閑と聞く天気予報 風が強くなった
松山 三好春冥