流域(未来山脈第347号より抜粋)

夫婦で穏やかに迎えた結婚記念日 四十四年の歳月を振り返る
伊那 金丸恵美子

出現にメディアも追いぬ御神渡り待つも五年の拝観神事
諏訪 伊藤泰夫

毎日まいにち毎日真冬日 空が欠けて落ちてくる
岡谷 唯々野とみよ

インコの横に庭の草取り日光浴をする私もインコにも春が来た
米子 稲田寿子

右肩上がりをキープしたい 土日の朝も七時に起きる
東京 堀江美奈子

霜がれた狭庭に雑草だけが青い芽をしのばせて春を待つ
さいたま 山岸花江

雪が全部砂糖だったらなあというのは幼い日のぼくの直喩願望
茨城 赤城恵

冬季五輪十三個のメダルと十五人の勝者帰国みな抱きしめたい
岡谷 武井美紀子

ちょっと手がまわらない内に草は伸び放題風に揺られてサワサワ
箕輪 市川光男

時計もスリープしてる午前三時 いつもよりそっと息子を起こす
諏訪 大野良惠

芋だんご芋あん詰めて塩の味戦後の母は雛の日に
札幌 石井としえ

白菜の硬く青い葉も料理次第で美味に 私もそんな使われ方でいい
大阪 高木邑子

二度もみまわれた大雪 そういえばカメムシ八十匹標本にした昨秋の一日
米子 大塚典子

手の届かない目標を目指し歩んできたあの道この坂
仙台 狩野和紀

耳の聞こえにくい夫と母の暮らしはとんちんかんがいっぱい
米子 安田和子

おひ様が窓一杯に陽がさして 春が来ました部屋は暖か
小浜 川嶋和雄

日だまりに集まり友と語る荒れた手の節を見せ合いながら
原 柏原とし

小学生の小平奈緒が滑ったスケート場 孫娘が一人で立ち滑っている
原 森樹ひかる

北陸道から上越道へ景色は一変 雪の中
原 桜井貴美代

五輪の映像から感動の喜び フィギュアの羽生「金」宇野の「銀」
諏訪 上条富子

夜が明けると何もかも真っ白 時間が留まったまま
原 泉ののか

何年生きても春が来ると喜びと移り変わる寂しさ空に描く
群馬 剣持政幸

「おんなの城」はよく書かれてあり楽しみ ここに出てくる認知症の女性は大変そうだ
琴浦 大谷陽子

五年ぶりの神渡りの神秘に県外者で交通渋滞 地元は感心うすく
岡谷 伊藤久恵

平昌冬季五輪 小平奈緒さん胸に輝く金メダル 成し遂げた柔らかな笑み
岡谷 堀内昭子

氷点下つづきで御神渡り現われ神の恋路に壮大なロマンの思いに馳せる
岡谷 林朝子

曇り空から発せられた朝の光居間の床に留まっていた
札幌 西沢健造

実家の書棚に丁寧に貼られた黒い時代物のアルバムがある
米子 笹鹿啓子

門口の車庫狭くする今日の雪朝に夕べに妻が雪掻く
一関 貝沼正子

冬ものをクリーニングに出さなくてよかったと妻の一言三寒四温
神戸 粟島遥

ちょっと温かい風が吹くと大地は正直にめざめこころもぬくい
諏訪 関アツ子

月光に濡れる亡き人の椅子かくて四十八年ラロのスペイン交響曲を思う
大阪 井口文子