高山寺から神護寺へ
- 2018年8月2日
- エッセイ
この六月十日十一日と京都の北山杉の栂尾町高山寺から神護寺を歩いてきた。
小雨の降ったり止んだりするなか、杉の木と緑の楓に古の人を思い、夢心地で歩く。
高山寺の石水院には擬人化された動物を描く鳥獣戯画がのこり、「平安時代の後期にはこんな躍動感あふれる筆致のカエルやウサギを描いたのか」と驚き歓んで目にした。
高山寺からバスで少し下がると神護寺。高尾山の神護寺には文覚の墓。ここで文覚に会えたことは、この旅の何よりの私の喜びである。
文覚は京都高尾山神護寺の再興を後白河天皇に強訴したため、伊豆に配流される。ここで頼朝に出会い、平家を倒すように促したという男で、最後の平家「六代」の場面にも活躍し、その平家の六代は幼い頃から頼朝方に狙われた(平家側の男の子はすべて探し出されて殺される)が、文覚上人によって平家の最後の大将・六代目はこの神護寺に匿われて、何とか三十余歳まで生き延びたのであった。
「平家物語」の語り部のように様々な場面で活躍する僧侶・文覚。若いころ好きだった女性を誤って殺してしまったことから、武士から僧侶の道に志し、熊野の滝に打たれ、日本の山という山で修行して、古刹の朽ち果てそうになっていた寺を再建しようと、立ち上がったのであった。これを勧進帳という。
「勧進帳」と言えば、弁慶が安宅の関所で偽の勧進帳を読み上げる部分が有名で、能や歌舞伎にもよくこの場面が登場する。このように古いものが後の人によって再興されるというのは日本人の美しさではないかと思う。
神護寺のそばを流れる清滝川の渓流を見ながら焼鮎のおいしいこと。清滝川とは保津川の上流であり、この奥山は北山杉で名高いところ。ここまでJRのバスが出ている。
光本恵子の短歌
・若葉に香る清滝川の流れを見て昼食 焼き鮎ぱくり
・流れに沿って浮かぶ食事処 つるつるとそうめんの喉越しがいい
・栂尾町高山寺 兎に蛙にリアリティたっぷり鳥獣戯画を見る
・鮎の焼き物を頭からがぶり 尻尾まで平らげて青葉にむせる