流域(未来山脈第351号より抜粋)
- 2018年9月1日
- 会員の作品
生き方は違っても激動の中を生きて六十年 思い出のかけらつむぐ
岡谷 三枝弓子
耕運機に飛び出す蛙 まだ眠っていたのか起きて働け、さあ百姓だ
木曽 吉田鏡三
嘔吐する女が蛇口に映し出されて艶のある黒髪半狂乱
諏訪 藤森あゆ美
イチタスイチハニ 大丈夫! さあ今日のメニューを確かめよう
富田林 木村安夜子
もう見に行くこともなくなってしまったよさこい祭りテレビで観る
札幌 西沢賢造
「あの山道を休まず歩いてきた」夫は嬉しそう 私はもっと嬉しい
米子 大塚典子
素っ気無い電話の声 虫の居所か用件のみ そそくさと切る
諏訪 河西巳恵子
毎年娘から父の日や誕生日に届く贈り物 今年は可愛い小さな花束
岡谷 花岡カヲル
薔薇園に行った バスを降りたら薔薇トンネル どこもかしこも薔薇づくし
原 大田則子
若葉の緑の間から明るい青空がまぶしい 今日は古希の誕生日
原 森樹ひかる
いつもいつも歌づくりが頭を過る五七五七七と夢の中で呟く
原 桜井貴美代
石ころだらけだった私の庭にカミツレの芽 老眼鏡を取り出す
原 泉ののか
繰り返す時間・回ってくる時間、そんな時間があればよい
京都 岸本和子
自作の短歌を振り返る 上から読んでも下から読んでも色がない
米子 笹鹿啓子
神カレンダー桃の花咲き春らしき日々眺めれば癒される絵柄
仙台 田草川利晃
山紫陽花 修験の山を黙々と目印頼りに山友をたよりに
北九州 大内美智子
この国は天災国 山が崩れ川があふれ人の小ささをいやおうなく知る
東京 上村茗
戦後七十三年 沖縄慰霊の日 痩身の翁長雄志知事 悲痛な平和宣言
大阪 與島利彦
いつも啼いている御向いの犬 何が恐いの淋しいのマンション十四階
愛知 川瀬すみ子
わたくしのいつもながらの朝の儀式これから始まる春夏秋冬
青谷 木村草弥
機内から眼下を見下ろすと綿あめのような雲がモクモクフワフワ
坂城 宮原志津子
歯科医院からの葉書は避けたくても無視できないいばらの道
諏訪 大野良惠
一泊の特養ショートステイを敢行 娘の負担軽減が名目の予行演習
大阪 高木邑子
耳朶に囁いてくれるさざなみは気が遠くなるほど胸をとかしてゆく
横浜 上平正一
垣根の陰にひっそり咲く奢莪の花 降りそそぐ無情の雨
諏訪 百瀬町子
頑張ってね 夫は手術室へダメならすぐ閉じますと医師
福知山 東山えい子
心臓の模型のような玉ねぎを薄切りにする 繊維にそって
東京 金澤和剛
み手に引かれて七十年弟妹たちも次々に祝福された七人姉弟
東京 保坂妙子
社会義務のような婦人会卒業していよいよ老人クラブ
岡谷 武井美紀子
万全を期しても不備はあるもので会議前夜は常に徹夜だ
青森 木村美映