急行列車(未来山脈第352号より抜粋)

真夏日、猛暑日、極暑日、灼熱日書いて見てなお知る今日の暑さ
大阪 井口文子

田に青々と命みなぎり空の侵入をはねのける
岡谷 唯々野とみよ

わが生やよしといいたい もう少し時間が欲しいと奥の声
奈良 木下忠彦

陥没した場所に心がくっついてひっぱってみるが役にも立たず
諏訪 藤森あゆ美

木漏れ日が差す窓にとどめようなく流れる記憶の朝の光り
札幌 西沢賢造

洗濯物干す二十二時の空 火星よ 橙色にまたたく
富田林 木村安夜子

毎年同じことが繰り返され平凡である幸せとはこの事か
諏訪 宮坂きみゑ

咲き終わった紫陽花の剪定をする来年もよろしくねと言い乍ら
さいたま 山岸花江

右足の脛が痛む 一日テレビの前でぼんやり 何も出来ない
岡山 廣常ひでを

許可を得て総会会場の日本代表の席に着く 国連の休会日だから座れる
大阪 加藤邦昭

息子のイタリアでの結婚式とスイス旅行 日本からは親族がつどった
原 太田則子

山川は癒しをくれる日もあれば命を奪う悪魔と化す日も
北九州 大内美智子

草刈りの後鼻につく土の香り真夏の土の力が湧き上る
諏訪 百瀬町子

秋風とともにチョコレートが美味しい季節が来た
青谷 木村草弥

体じゅうコードにつながれわずかに動く右手と頭
福知山 東山えい子

毎日「危険な暑さ」が続く よく食べよく眠ることが熱中症予防
岡谷 林朝子

おかゆにこうじをまぜて保温するとほんのりとした甘酒の香り
坂城 宮原志津子

チカチカチカ湖を輝かせて出る朝日熱い缶コーヒーが旨い
箕輪 市川光男

娘に電話「お呼びしましたが…」と出ない 雨に鴉が鳴く
諏訪 松澤久子

清涼を誇る純白の夕顔の花のはかなさ暑中の最中
諏訪 伊藤泰夫

日本列島がギンギンに暑い温暖化が進みこの先が不安になる
茅野 伊東里美子

諏訪大社下社のお船祭り 十年一度の御頭郷に猛暑の下諏訪が燃えた
下諏訪 藤森静代

肉屋の閉店に駅の無人化 女子校の統廃合でこの町はどこへ行く
群馬 剣持政幸

何も残らない生きてい来た道でも 歌は私の足跡であれ
東京 上村茗

庭先に黒い陰が走る 尾の長さは三光鳥のようであったが
岡谷 横内静子

独特の香にひかれて鵯はチェストベリーの小枝を三本へし折った
岡谷 柴宮みさ子

おっとり慌てず孫娘 排球に惹かれ三年目弱音を吐かずよくぞ成長
岡谷 三澤隆子

どんなに色あせ綻んでも 夫のお気に入りTシャツだから畳みましょう
岡谷 片倉嘉子

児のグレンツェピアノコンクール前夜 築地の”すし好”での贅沢
岡谷 金森綾子

梅雨が早く明けてカッカカッカ暑い 過去の記録を更新し続ける
岡谷 武田幸子

暑中見舞いは猛暑の羅列 猛の一字を限りなく重ねるお返し
千曲 中村征子

戦後の混乱期を生きてきた 戦没者を記念して今年も諏訪湖の花火
諏訪 上条富子

私の歩んだ道程はくねくねと曲がっている 曲がりながら未来へ向う
伊那 金森恵美子

ひんやりと風が冷たく感じますそろそろ秋がやってきたのかな
松本 大野みのり

八月九日 今日は長崎に原爆のおとされた日 一日中式典が続く
琴浦 大谷陽子

今日もめん昨日もめんだよソーメンだ それでも飽きない暑い日続く
小浜 川嶋和雄

川音を右に聴きつつ坂を下り商店街のベーカリーまで
下諏訪 笠原真由美