急行列車(未来山脈第354号より抜粋)

七十路を越えても未だに女恋うかなしき性より妻を抱きながら
横浜 上平正一

青色の空をさらさら抜ける風 あぜ道に赤いあかい曼珠沙華
富田林 木村安夜子

八月十五日 戦争は終わったけれどペットの赤が夫の病つげ家族の戦はじまる
米子 大塚典子

十二歳過ぎた頃より息子らは面倒くさそうに私と話す
諏訪 藤森あゆ美

構内のいちばん立派な銀杏の樹 空に近い枝の先から黄色
下諏訪 中西まさこ

昭和十九年三月生まれまでの人私に初めて敬老会の招待状が来る
岡谷 武井美紀子

眼鏡を外してじいっと赤い星を見つめる 少しだけ微笑んでくれた
岡谷 横内静子

アクセルを力一杯踏み込んであの雲をつきぬけ空の彼方へ行ってみようか
岡谷 片倉嘉子

閉口した異常な暑さはどこへやら 露霜降りて初秋のとき
岡谷 武田幸子

巨人大鵬 歌姫ひばりなどなど世代を賑わした昭和は遠い日
諏訪 百瀬町子

強風に大木は響動めき荒れ狂う これでもかと天は私を苦しめる
原 桜井貴美代

黄金色の波がうまれ娘は収穫の時を迎える 輝きの季節
原 泉ののか

厚真安平むかわ美留和 みんな聞いたことがなかった地名だ
茨城 赤城恵

教会の席から送るフォト・データ“リハーサル・なう”まもなく結婚式
下諏訪 笠原真由美

私を管理監督している妻は帰省中 ゆっくりコーヒが飲める
大阪 加藤邦昭

母を送りへろへろでこの町に 家順の役それなりにやり熟す
諏訪 河西巳恵子

夜更けに一人街を行くあの事がきっとショックだったんだ
藤井寺 近山紘

君と出会い四十八年和菓子をずっと食して来た 初めて伝えるありがとう
伊那 金丸恵美子

元(株)クボタ専務のK氏が来宅されて恐縮の至り
青谷 木村草弥

もういいもういい体が焼ける いくらお日さまだとて嫌がられる
千曲 中村征子

雑木は笑う小鳥が枝に巣を掛けたとき くすくすくすと笑う
豊丘 毛涯潤

突抜ける空の青色鮮やかに 映す私も夏が消えてゆく
諏訪 大野良惠

私はなつえ娘ははるえ孫があきか 季節の名前が三世代つづく
諏訪 宮坂夏枝

竜田川からくれないのもみじ葉は 千年の昔しのぶよすがぞ
京都 岸本和子

建て替えに至る要因指折りてぼうっとしてはいられない日々
諏訪 伊藤泰夫

なにげなく使っていた電気が停電 台風の凄い風に眠れない
茅野 伊東里美子

今日はデーサービスの日 皆さんと会話に花が咲く楽しい日
岡山 廣常ひでを

花の終わるまで待とう食物も人も生きるすべは同じだから
さいたま 山岸花江

娘がくれた真っ赤なハイビスカス 回想のワイキキも夕日も燃えていた
大阪 井口文子