いのち(未来山脈第356号より抜粋)

足元にふきのとうがむくむくと暖かな冬の陽射しに誘発される
岡谷 三枝弓子

さあ窓ふきだ十九格子の戸にカメ虫はびこる殺虫剤手に目を凝らす
木曽 古田鏡三

今までは縁なき[つくば]はるばると子の出場をひと目見に来る
諏訪 藤森あゆ美

毎月の曾孫の写真カレンダー届き一途な瞳と気力が寄り添う
諏訪 関アツ子

歩く会は七十五歳の高齢化 最近は山より平地歩きが多くなり
大阪 山崎輝夫

人は皆多少成りとも過ちを犯す それに気づいて明日を活きて行く
伊那 金丸恵美子

弓道の大会で初めて福井県へ 息子の応援は旅行気分
諏訪 大野良惠

細々暮しと質素な暮しは違うと言い合い昨日の続きでお茶を飲む
豊丘 毛涯潤

曇る朝小雪なれど冷えもせず バーゲンセールだ買い物に行く
小浜 川嶋和雄

なんか疲れて空しい日わかんないけど疲れてる今日すっごい虚し
愛知 川瀬すみ子

スポーツ選手のピタッとしたユニフォーム鍛えあげる筋肉
諏訪 浅野紀子

来年は消費税10%冬物の肌着を買っておこうか財布は厳しい
諏訪 松澤久子

身からでた錆 でもどう抑えればいいの この胸の波立ち後悔を
大阪 高木邑子

風呂敷に祖母の名前が左書き上すわ布やせつの文字
諏訪 河西巳恵子

現代は、超デジタル時代4K・8Kで百聞一見の世界旅行
大阪 與島利彦

今度ばかりはお手上げとなるか 山本周五郎作「夜の蝶」の朗読
下諏訪 須賀まさ子

草や木が生き方を教えてくれる風が吹いた時は揺れたっていいんだ
つくば 辻倶歓

ラーメンはお酒の後が旨かった今ではお腹のすいた後
箕輪 市川光男

時に追われず電車旅 扇風機やつり革の黄ばみにもぬくもり感じる
原 太田則子

反省と謝罪の機会を回避した小さなイヌの小さな心
下諏訪 中西まさこ

この町が好きだから帰ってきて二十年慣れてきた来たこの十年
群馬 剣持政幸

朝のカーテンをあける 庭一面の冬景色に初雪だ 山もまっ白
諏訪 上條富子

「わかば会」の歌の時間 さだまさしの次に懐かしい歌をみんなで歌う
鳥取 大谷陽子

太陽はずっと燃えている 心配よそに君をちょっとだけ気にかけている
東京 中村千

霜月の庭に青色際立つ信濃勿忘草 よし来年は玄関前に植えよう
岡谷 柴宮みさ子

放たれて何処へと限りなく夫と行く 深山は二人を飽きさせない
岡谷 横内静子

晩秋に陽の温もりうれしい級会 平らな湖面は青空を映している
岡谷 三澤隆子

人一倍努力家でいつも仕事をしているおばあちゃん そんな姿を見習いたい
松本 下沢統馬

朝日にキラキラ輝く蜘蛛の巣に真紅のカエデはらはら落ちる
岡谷 武田幸子

もみじ葉は赤や黄がそれぞれ違って あれもこれも拾えば手に一杯
岡谷 片倉嘉子

引きものの赤いラジカセが届いた日”あし笛の踊り”の懐かしく
岡谷 金森綾子

締切日過ぎても一首も歌ができない 諦めて今日はゴスペルの練習をする
大阪 加藤邦昭

縁側から向かいの山を眺めている師走に入ったというに何もできない
岡山 廣常ひでを

花の終わるまで待とう植物も生きるすべは同じだから
さいたま 山岸花江

目の中に異常が見つかる極細の針で注射する治療が選択される
藤井寺 近山紘

あのアインシュタインが弾いていたピアノとは露知らず弾いていた私の若い日よ
大阪 井口文子