会員の作品

「未来山脈」の会員の作品です。

いのち(未来山脈第374号より抜粋)

起こりには(硝子のコップが落ちた)音 張本人から傷つくための
愛知 相良龍平

りんご園の自販機が売る布マスク赤いドットの一つ購う(あがな)
一関 貝沼正子

古い手紙はダンボール五つ色あせた本は三百冊 古希の断捨離
松山 三好春冥

従兄弟が畑を耕しに来てくれる胡瓜やトマト野菜の葉は青々
岡谷 佐藤靜枝

ひと月休むと自分で決めたFB(フェイスブック) 旅の写真など投稿したいが今は自粛
下諏訪 須賀まさ子

変なの うるさがり屋のわたし蛙と鳥がゴッチャに聞こえる
千曲 中村征子

多芸多趣味の人生を送った知人の夫は七十五歳で旅立ったあまりにも早い
米子 稲田寿子

色さめた夕焼け雲と月が浮かぶ今夜の空は
茅野 平澤元子

山紫陽花に寄り添うライラック 雨の中ひっそりと濡れて咲く
岡谷 花岡カヲル

給付金を手に我慢したものひとつずつ ためらわず買える快感
諏訪 大野良恵

コロナ禍で日々の暮らしに暗雲が先行き分からぬ世界の未来
原 桜井貴美代

満ですよ五羽の子燕巣から落ちそう押し合いながら餌をねだる
原 太田則子

はるちゃんの鯉幟 元気いっぱい青空を泳ぐおよぐ
はら 泉ののか

我が家の道のまん中にポツンとさいた小さなワイルドデイジー
原 森樹ひかる

今年も嫁から娘から届くはなやかな母の日の花心遣いが胸にしみる
岡谷 武井美紀子

要介護にお世話になるも気恥ずかしい 人様の面倒も見ないで
茅野 名取千代子

遅日 感じる夕ぐれに 夏のおとずれがすこしずつ聞こえる
鳥取 小田みく

格差社会の底辺の娘がいう私にまで十万円くれなくてもねと
大阪 高木邑子

緑がそよぐ春がきた百姓も始まった竹の子さん顔出せや
木曽 古田鏡三

コロナ緊急事態宣言から解除まで 長かったひと月半
諏訪 宮坂夏枝

「隣の芝生は青い」というのは どういうことだろう
青谷 木村草弥

寺のきざはしに腰をおろす老人二人彼岸此岸の風に吹かれて無言
岡谷 土橋妙子

さり気なく肩を寄せてくるひとは爽やかな千草の匂がする
横浜 上平正一

正午過ぎの不思議な光景 帰る生徒と登校する生徒が交差している
京都 岸本和子

大気が瘴気に満ちている みんながマスクを着けている
山梨三郷 岩下善啓

朝起きる猫の仔来たり転がって「撫でていいよ」と声が聞こえる
神戸 粟島遥

コロナ休校だ 今宵も親子でパタパタ縄跳びの音する夕焼け小焼け
大阪 山﨑輝男

コロナ禍に逝きし友にも会えずして一夏(いちげ)過ごせど救いなきまま
東京 木下海龍

三キロを歩いて此の花確かめに 満開にはもう少し
岡谷 唯々野とみよ

ピカマチスの葉っぱをなでれば海越えて砂漠の粒が我が鉢植えについてをり
さいたま 清水哲

以前のように身体が動かない なかなか短歌もできない悲しさ
埼玉 赤坂友

助手席の母を横に久しぶりにハンドル握る ちょっと爽快
横浜 大野みのり

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太陽は今(未来山脈第373号より抜粋)

薄翠のはなびらひらき六月の桜がひらき散った六月
北海道 吉田匡希

八方塞がりが心に影を落とす ロールシャッハの不定形の染み
京都 毛利さち子

春のカラス一羽 幸せな住処めざして飛んでゆくのだろうか
札幌 西沢賢造

一番に逢いたい人はお父さん! は本当 でも自由も良い
福知山 東山えい子

黄色の水仙が咲いたよ 車椅子の母に窓越しの風を見せる
松山 三好春冥

地域集団作る媼ら家よりいいと悪口雑言餌に暇もて余す
諏訪 河西巳恵子

庭先で老いが転ぶ大丈夫かと言えば 大丈夫と言う谺でしょうか
豊丘 毛涯潤

夫が逝って一人では耐え難く居候をさせてもらう姉の家
岡谷 佐藤靜枝

しきりに動きたそう 動けない動かない 変だ ひょっとして
奈良 木下忠彦

コロナがね原村にも来たんだってと口から口へ実(まこと)しやかに
原 桜井貴美代

雨上がり陽を受けた水たまり二羽の雀が水かけごっこ
原 太田則子

トラクターの音が響く誇らし気に光る掘り起された土
原 泉ののか

灰色の森から生命(いのち)みなぎる緑の森へ まさしくゴールデンウィーク
原 森樹ひかる

乗客の来ない今年の連休に片付けに集中する毎日
諏訪 浅野紀子

咳をしてもコロナ? くしゃみが出た 飛沫が飛ぶ マスク マスクと騒ぐ やれやれの毎日
東京 上村茗

花冷えの夜 牧師の許可を得て暗闇の礼拝堂で一人祈りを捧げる
大阪 加藤邦昭

せっかく髪染めたのに友だちにも会えず学校へも行けない息子
諏訪 大野良恵

社会の機構 人の情コロナウイルスみな喰い荒らす
諏訪 松沢葉子

予定表 あれもこれもが中止で消され 通院日だけが残ってる
坂城 宮原志津子

歳食って生きていると何が起きても叉来年の春うららの楽しみある
藤井寺 近山紘

みんな自分の優位性を強調し自信満々な発言私はカッコ付けてもだめ
下諏訪 須賀まさ子

庭のあちこちに二寸足らずの可憐なすみれ微風に首をふりふり咲く
岡谷 花岡カヲル

曾孫十九歳の誕生日大学も決り入学を待つばかりでも行かれない
東京 保坂妙子

高齢者になって腕力脚力腹筋の衰え切実に感じる昨今
岡谷 武井美紀子

耳障りなのは「躊躇なく」と「スピード感」偉い人ほど言い訳がましい
横浜 福長英司

零下の朝は寒いけれど窓越しの日差しにホッとする
茅野 平澤元子

パソコンを替えたついでにオフィスを更新するのもなりゆきでした
青森 木村美映

集落の鯉幟あがる空にウイルス吹き飛ばせと祈る
諏訪 宮坂きみゑ

一日に何度となく繰り広げられる姉弟げんかそれでも姉弟がいていい
流山 佐倉玲奈

フランス コンクのサント・フォア教会の「タンパン」
青谷 木村草弥

新聞にテレビニュースはウイルスだ コロナコロナとほんと疲れる
小浜 川嶋和雄

予定なく五月のカレンダーは真っ白 スケッチブックを取り出す
米子 角田次代

残雪の仙丈に向かって力強く泳ぐ鯉幟病を乗り越えた私を励ます様に
箕輪 市川光男

青嵐渡るや八洲コロナ災 蝦夷の國から琉球までも
東京 木下海龍

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素足(未来山脈第372号より抜粋)

しがらみ年ごとに外して古希 瀬と淵の際も知らず逆らう
松山 三好春冥

八幡の杜の木々に淡い花を咲かせるなごり雪 華やか故のはかなさ
岡谷 三枝弓子

とうに忘れていた約束靴の紐がほどけているのを見て思い出した
藤井寺 近山紘

コロナで休校ドキッ! 孫ら三人預かって ありそう
福知山 東山えい子

歌集「信天翁」が届く 病気療養中の私には意味深に響く歌集名
大阪 加藤邦昭

山から里へ降りて来る朝もやの中 車走らせポストへ短歌投函する
辰野 里中沙衣

初詣での階段のぼれば蹌踉(よろ)けてる八十間近の萎びた青年
横浜 上平正一

世界中に広がるコロナウイルス 人々の流れ密度の濃さを再確認する
坂城 宮原志津子

冬物をまとめて車に積み込むこの冬物来年も着るつもり自分に問う
東京 鷹倉健

居心地悪そうに並んでいる玄関前の雪かき春に追われて
諏訪 大野良恵

また泣ける何が悲しいわけじゃない いたわりなのか確かな助言
諏訪 伊藤泰夫

春の下弦の月 オリオン座瞬く大きな窓の真夜中
諏訪 河西巳恵子

生きる資格が無いかもしれないのは分かっているそれでもささやかな幸せを
つくば 辻俱歓

放たれて何処へと限りなく夫と行く 深山は二人を飽きさせない
岡谷 横内静子

冬枯の我庭に春一番告げるサンシュユの黄花道行く人も振りかえる
岡谷 三澤隆子

ここからは見えないはずの富士山を蜃気楼のように雲つくり出す
岡谷 柴宮みさ子

海の近くに住みたい 僕の住む長野県はどこを見ても山
松本 下沢統馬

ささやかにバレンタインデーに込めた愛ふぞろいのまま箱に詰め
岡谷 金森綾子

ふきのとうを夢中で採ってザルいっぱい天ぷらのほろ苦さ
岡谷 片倉嘉子

人のいないスクランブル交差点に歩行者信号が点滅している
下諏訪 笠原真由美

暗いニュースの日々楽しいことを考え免疫力アップ 身を守りながら
米子 角田次代

ギャーギャー騒ぐ外の光景は上の空テレビ点ければ新型肺炎の話題
群馬 剣持政幸

駐車場にぽろんっと一つ苺が日向ぼっこ 誰にでもない赤い孤独
愛知 川瀬すみ子

目が覚め短歌をつくろう目がちらちらして字が書きにくい
諏訪 上條富子

かわいくないはなやかじゃないその名に負けてる姫踊り子草
岡谷 唯々野とみよ

短い眠りから覚める 目を閉じて二度寝の眠りのふりをするも
札幌 西沢賢造

寝れ親しんだ環境に不安がつのる 得体のしれぬ外菌で
境港 永井悦子

仕立てたままで箪笥に三十年 米寿に着よう 仕付けをほどく悦び
岡谷 堀内昭子

ならんだならんだチューリップ頭ゆらりゆら春風が優しくなでる
岡谷 伊藤久恵

春耕の音も賑やかに深い眠りから覚めた大地 いよいよ出番
岡谷 林朝子

気づかなかった電話・メール「会えないんだから電話ください」と
下諏訪 須賀まさ子

仰向くと水を讃えた桜花が今日も昨日も しずかに珈琲すする
富田林 木村安夜子

トントントンと朝の階段 ソレソレのかけ声と手すりにすがる夜
長野坂城 宮下久恵

今 午前五時 目覚める事が余り嬉しくないような気持ち
太田原 鈴木和雄

仮定された上空までの奥行きを永却見上げた 食卓に就いて
愛知 早良龍平

土のなか黄色い頭のふきのとうぽつりぽつり語り始める
下諏訪 光本恵子

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いのち(未来山脈第371号より抜粋)

朝の通勤電車 座る確率が上がる 喜ぶ自分がいる
京都 岸本和子

おやすみキテイー おやすみ 願えば叶うってどこかでまだ信じている自分
北海道 吉田匡希

友より届いた野菜の宅急便菜の花の蕾が早春(はる)をつれて
北九州 木内美智子

杖つく人も多い 何の因果で下船できぬか苦悩に満ちたコロナ船
大阪 山﨑輝男

コロナ騒動 何もかも息苦しい ウィルスと菌のちがいを娘より学ぶ
東京 上村茗

そろそろか六つ数えて深呼吸 われの怒りを拳に潰す
一関 貝沼正子

夜明けの西空に低くオリオンを労り抱くシリウスの姿への望郷
岡谷 土橋妙子

節約の限界越え背中を這う 黒髪染めて若作り
諏訪 大野良恵

秀峰大山の道ぞいに落葉や雪の下から春を待ち芽を出すふきのとう
米子 稲田寿子

さようならお元気でね 十年間の物語を胸に抱き締めて旅立ちます
伊那 金丸恵美子

また私の心臓がウトウト眠る身体の熱がなくなって大騒ぎとか
箕輪 市川光男

新型肺炎患者が来るのは覚悟の上と病院受付の娘は気丈に振る舞う
大阪 高木邑子

下諏訪は温泉施設が多く有り日々利用して長寿の助けに
下諏訪 小島啓一

図書館で親に巣から落とされたコサギを小学生の娘がひろってきた
諏訪 宮坂夏枝

そばに佇んでいるノボロギク 貴女がそばにいるような気がして
つくば 辻俱歓

凍りつく湖面に石を投げてみる音も立てずに転がって消える
原 桜井貴美代

買い物もマスク無しでは怪しまれ人込み避けて静かに暮らす
原 太田則子

青空にキラキラと舞う風の花 妖精たちの声きこえくる
原 泉ののか

揺れたり休んだり 葉をつけない木々たちの裸のおつき合い
原 森樹ひかる

若者の三学期春はそこ迄来てるのに思いもよらぬコロナウイルス
諏訪 宮坂きみゑ

児らの声がはねる赤いボールが跳ねるスニーカー跳ねる
岡谷 唯々野とみよ

こんな事態になる前に注文していた専門書「ハイデガーとラカン」
下諏訪 中西まさこ

花瓶に注ぐきれいな水道水 スターチスの紫が華やぐ
富田林 木村安夜子

赤い花びら机と畳に散らばる 鮮やかなさまの真冬日
札幌 西沢賢造

ウィルスが在庫セールのごとく砂漠にした東京・銀座
さいたま 清水哲

うっすらと地上に雪が残る朝二羽の白鳥はひっそりと北帰行する
岡谷 三枝弓子

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太陽はいま(未来山脈第370号より抜粋)

サンルームのしゃこばサボテン咲きさかり令和二年の温い正月
一関 貝沼正子

一つの事を続けるのは長い年月を費やす リンゴに赤い果肉微笑む
伊那 金丸恵美子

蘇東坡の詩を書き写す キャンパスノートに横書きで
下諏訪 笠原真由美

どの分野にも若い才能 習熟伝統を越えて新しい息吹
奈良 木下忠彦

冬だ冬だと梢がさわぐ余分なものを捨てた木々の確かな生
諏訪 松沢葉子

日の暮れるのが少し遅くなった なんでもないことが今日は嬉しい
京都 岸本和子

夫の腰がぬけて動けない どうしようもなく切羽詰って救急車だ
飯田 中田多勢子

鍵穴も見えない暗い周辺 街灯がぼんやりと道路を照らす
岡谷 佐藤靜枝

始まりはいつでも良い 今年で三度目になる巡礼の旅
鳥取 小田みく

あ~あ頭はハゲるし腹は出る腰は痛んで肩も張る世の中闇だ
箕輪 市川光男

スキー場に雪は無いがすがすがしい白い山を見ながら草をとる
米子 稲田寿子

思い出いっぱいの城崎西村屋に遺影の夫を連れていく もうすぐ一年
米子 大塚典子

毎年めぐってくる誕生日なのに毎年毎年祝ってもらう
岡谷 武井美紀子

一月の雨が音をたてている 雪でない安堵と雨である不安と
岡谷 唯々野とみよ

悪魔っ祓いやどんど焼き町や村も楽しくやる小正月
諏訪 宮坂きみゑ

寒空に咲くロウバイに足を止める 持ち主と話が弾む散歩道
下諏訪 藤森静代

日本歴史の奥ざしき 京都盆地に愛着わく 周年伝統行事・盛大
大阪 與島利彦

頭の上の電線はホント頭がいいんだ 明細書がまっすぐ通過していく
千曲 中村征子

ひさしの雪が朝陽にとけて庭石をうがつ大寒の朝
岡谷 片倉嘉子

朝のラジオ体操 じゃんけんゲームに加える二人の新たな試み
岡谷 金森綾子

なだらかに整えられた植込みを藁帽子はさわさわとたどる
岡谷 柴宮みさ子

つつがなく暮らした我家の一年だるまの目入れ式に感謝の締めとなす
岡谷 三澤隆子

青空に連凧が垂直に上がる 今年はきっといいことあるよ元旦ウォーク
岡谷 横内静子

プリンタはすぐに壊れるものらしくあえて最新機能は追わない
青森 木村美映

探し物をしていたら目的物は見つからず出てきたのは昔の未来山脈
東京 保坂妙子

誕生日ショートケーキは六種類七十八歳の言葉も冴える
東京 木下海龍

今頃は友の出棺の時 テレビを消し自宅の居間より手を合わせる
大阪 高木邑子

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いのち(未来山脈第368号より抜粋)

シャワーヘッドから生まれた水が何にも触れずに排水される
名古屋 早良龍平

僕と君と似た者同士のふたりだね男と女の違いあるけど
下諏訪 中西まさこ

もみじ浴の京都清水寺 元年の漢字は「令」に森貫主の揮毫アート
大阪 與島利彦

一首も書けなかった夏 作りかけた習慣が崩れていく
京都 岸本和子

不幸なまま幸福のままでは終わらないという人生 やっと普通な今
下諏訪 須賀まさ子

「ありがとうございました」と一日に百回くらいは言ってる仕事
諏訪 藤森あゆ美

娘の子五歳と三歳七五三を一緒にやる兵庫加古川の日岡神社
岡谷 武井美紀子

娘に誘われて地図にのっていない御射鹿池(みさかいけ)を目ざし登って行く
岡谷 花岡カヲル

健康教室の集いは笑顔で始まり笑いで終わる高齢者活躍の場
米子 稲田寿子

小鳥のさえずり ゆったりとした旋律「自律神経にやさしい音楽」をきく
諏訪 宮坂夏枝

青空にぐらぐら燃えるピカマチス認知症治療のジューズに凝れ
さいたま 清水哲

ラグビー四強はイングランド ニュージーランド 南ア・・・大英帝国だ
太田原 鈴木和雄

年取れば丸くなるかと思いきや協調忘れた老人会
北九州 大内美智子

最後まで寄り添えた安堵の思いか 亡夫を時々忘れる日もあって
大阪 高木邑子

漢詩の中国語朗読でいろ鮮やかな山川草目心に沁みる
大阪 山﨑輝男

わずかに残った葉がゆれる音もなくこきざみにゆれる
岡谷 唯々野とみよ

チャラチャラした女子高生より真面目に身体を受け容れる女性の尊さ
つくば 辻倶歓

連れ合いに声かけをするウォッチング壺坂霊験記ここに深い愛
諏訪 伊藤泰夫

北風に枯葉舞い散る最後の一葉小枝にしっかりしがみつき
東京 鷹倉健

秋晴れの日山友二十一人はマイクロバスで三瓶山登山に出発する
米子 安田和子

八十七歳のトラクター坂道に横転 勤しむ日々いくつもの物語
千曲 中村征子

台風が三十近くも発生する 海水をたぎらせたのは人間のしわざ
奈良 木下忠彦

炭鉱(やま)おとこ代表していた町会議員閉山反対つらぬいて

札幌 石井としえ

多忙ときめきの無いまま新短歌(うた)出来ず散歩の枯葉ふみしめる
鳥取 小田みく

石川英吾様 鹿沼市千渡の石川家にごりっぱごたんじょうをなさる

鹿沼 田村右品

一円不足で戻ってきた原稿 〆切に間にあっていたのに
東京 上村茗

三十年ぶり ランチ会のお誘い仲間の顔思い浮かべながら心がおどる
坂城 宮原志津子

晩秋の午後の黄色い光に照らされ街も人らもきいろく染まる
京都 毛利さち子

言葉より先に涙があふれ出る 洪水の街 流される犬
一関 貝沼正子

ロンドンから北に電車で一時間 ケンブリッジに着く
青谷 木村草弥

我が家の正月準備は当番制に子達の住む地で順番に
下諏訪 小島啓一

淡い淡い靴の紅いろにじみいでて知らない街の歩道を染める

北海道 吉田匡希

生まれは大町 松本の茶道の先生に気に入られて名古屋に
諏訪 上條富子

 

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太陽はいま(未来山脈第367号より抜粋)

千羽鶴を贈ったのは半世紀前 折り方を忘れた指をあたためる
松山 三好春冥

冷めた湯船に熱湯を足す 日常は常に刺激を待っている
諏訪 藤森あゆ美

建設中の五階建てビルこの夏をグレーの幕が家の気塞ぐ
一関 貝沼正子

娯楽館おんこが目じるしみんな集まる炭鉱(やま)の楽しみ芝居に映画
札幌 石井としえ

わが国二度目の夏季五輪―世界平和記念祭典真近わくわくする
大阪 與島利彦

花水木が紅く染まり銀杏の黄色が鮮やか 山茶花が一杯に花弁を開く
伊那 金丸恵美子

伸びて来た水菜に屈んでものを言う生前に親父が春にしたこと
豊丘 毛涯潤

あれに良しこれに良しとCM踊る サプリメントは魔法使いか
坂城 宮下久恵

朝霧の中日輪が消える諏訪湖マラソンランナー出揃う
諏訪 宮坂きみゑ

秋宮境内の石灯籠 苔と枯葉を載せて秋のおしゃれする
下諏訪 藤森静代

文化の日にふさわしい朗吟の夕べ 夫も吟詠し盛り上げる
岡谷 佐藤靜枝

秋明菊の淡い紅色 吹き抜ける風は涼しくて散歩へと誘う秋の一日
辰野 里中沙衣

刻々と映し出されるテレビ画面に言葉を失う 何ということだ
坂城 宮原志津子

恐ろしげな雲動く 日の光にやわらかく包まれ見ている
岡谷 唯々野とみよ

遠目にもそれと知る百日紅 真赤な花ふさ二階も超えるいきおい
岡谷 三澤隆子

気がつけば毎朝庭を動かしている 根の張るものは選別される
岡谷 横内静子

「オメェなんて言わないの」 さらに連呼する三歳の孫娘
岡谷 片倉嘉子

歌集『言がたり』に重なる幾つか きっといいことあるよ貴女にも
岡谷 金森綾子

グラスに揺れる秋桜 歌会のいつもの席にかすかなけはい
岡谷 柴宮みさ子

瀬戸芸で賑わう瀬戸航路チケット待ち時間二時間三便をゲット
米子 角田次代

愛隣会館が取り壊される 変化に対応出来ない弱者を忘れないで
大阪 高木邑子

カーテンの襞を泳ぐ鳥の影夜になったら全部消えた
名古屋 早良龍平

さようならを言う覚悟はできている 当てのない風にちぎれた涙
諏訪 大野良恵

‶おとうさんの読みあたったよ〟吉野彰ノーベル賞の新聞供える
米子 大塚典子

十八の珊瑚の肌に紅をさし君を待てば ああ ああもう冬
北海道 吉田匡希

マニュアルがないとできないという あればあなたでなくてもいいのだよ
京都 岸本和子

ほうき草に触れながら夏から秋への日を浴びる ほしいな草ぼうきひとつ
千曲 中村征子

ユーモアで笑いを誘う講演を終わりまで聞いて帰途につく
下諏訪 小島啓一

シャガール展の異次元の世界を見て浮かれて求めた高額の本一冊
岡谷 土橋妙子

いつもの鉛筆で言葉をなぞる ひとりだけの海の波
富田林 木村安夜子

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素足(未来山脈第366号より抜粋)

掌に残ったわずかな温もり 共に暮したインコの命惜しむ
岡谷 三枝弓子

猪に踏みしだかれしごかれつつ立つ稲 刈り取り不能の田
福知山 東山えい子

滴る春に街に出よう曇りがちだった窓に朝の光満ちて
札幌 西沢賢造

暑い十月 朝晩が涼しいからしのげるが 太陽の照り付けはまいる
東京 上村茗

母の遺してくれた箏仲間 彼女たちと暖かな時を私は享受している
諏訪 宮坂夏枝

石間も砂地もぐんぐん 咲き広げるマリーゴールド オレンジ一色に
岡谷 堀内昭子

朝晩めっきり涼しさを呼んで庭一面の秋桜 飛び交う赤とんぼに癒される
岡谷 林朝子

もういない義母の施設を訪ねる眺めてただろう晩秋の葛城山
藤井寺 近山紘

崩れきれないという廃墟の無惨 夕陽よ抱いて奥まで深く
諏訪 松沢葉子

青空映えてくっきりと山並み 朝日に照らされみずうみ輝く
諏訪 上條富子

十月は秋らしい陽気になるはずがこの暑さ地球は何処を廻ってるの
東京 保坂妙子

他国から要求多い我国はスイスのように自立出来てますか
下諏訪 小島啓一

君の捨てた草履の鼻緒を直して履く 足の裏から君を感じる
長野 岩下元啓

高原の紅いどうだんつつじ 小さな鈴の様に風に揺れている
茅野 平澤元子
いちめんにピカマチスの深紅が広がりし雲に映えて名画になり
埼玉 清水哲

ようやく終わった夏休み ほっとしたのもつかの間 運動会発表会と
流山 佐倉玲奈

喉におわす神様がいう「近頃は汚い風、よく通りますね」と
北海道 吉田匡希

記録的暑さに笑顔ふりまいたひまわり身なりもあわれ お疲れさま
岡谷 伊藤久恵

部活が終わった三年の夏 もう縛られる事なく走れるのは楽しい
伊那 藤本光男

きれいだぜ裕次郎だぜ海生き物沢山いるけど意味はしらない
東京 中村千

友の安否が知りたくても伝えられない歯がゆさ
埼玉 赤坂友

吐く息の白さに気づく信号待ち 学校までの道のり
松本 下沢統馬

雨のしずくが文字をつないで流れ落ちる バスの席
下諏訪 光本恵子

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いのち(未来山脈第365号より抜粋)

太古の夏 そこで聞いた曲だけがときどき浮かんでくる
愛知 早良龍平

日常に闇はひそんでいるけれどアンダンテ・フェスティーヴォの心で生きる
下諏訪 笠原真由美

生命を燃やして逝った蝉せみ 夕焼け空に赤トンボ舞う
大阪 山﨑輝男

自由だ‼ 浮かれていた心が沈む もう夫は帰って来ない
福知山 東山えい子

他人(ひと)との行き来が少なくなり日に日にひとりの実感が増殖する
奈良 木下忠彦

九月になれば暑さやわらぐ元気を出してと思えど残暑が厳しい
岡谷 武井美紀子

雲と話すもいい花達と唄うもいいそして黙って人といるのもいい
諏訪 松沢葉子

草むらに鳴く虫のコーラスと冷ややかな風で夏も遠ざかる
諏訪 百瀬町子

梅が咲き水仙が咲き鳥が唄う 春っていいなあぁ みんな元気だ
箕輪 市川光男

人目引く一筆寺の掲示板 心に留めて我以外はみな師匠
諏訪 伊藤泰夫

ぎこちなく背中にリュックのデビュー 視野高くなりるんるん
岡谷 金森綾子

高音が出なくてもはずれてもよし 友と思いきり歌えば気分爽快
岡谷 片倉嘉子

定期検診を前に体重増加を心配しつつ過ごす食欲の秋ついぱくぱく
米子 稲田寿子

紫に色付き始めたチェストベリーの花房 梅雨明けの空に映える
岡谷 柴宮みさ子

吾庭のあじさい見頃の隣に萩の花咲くを見た梅雨の明けた日
岡谷 三澤隆子

傷が癒えなくもリハビリに励む夫 手を抱え病院の廊下を二人で歩く
岡谷 横内静子

徘徊し深夜警察署に迎えに行った 煮豆上手は忘れない
北九州 大内美智子

密かに連れ出してくれる散歩 分譲地の畑にズッキーニの大きな葉
諏訪 河西巳恵子

柔順な土が待つから日課として山畑に出る わたしのマチュピチ
岡谷 土橋妙子

雨合羽に傘持参 赤い長靴を履き予約のバスの旅は豪雨の地に向かう
米子 笹鹿啓子

剪定をしたり肥料をやったり たくさんの花をつけた玄関先のサルスベリ
流山 佐倉玲奈

まどいながら発信した処女歌集 すこしずつ色づく
富田林 木村安夜子

綺麗に刈った夕暮れの芝生に川風が涼しい 秋だ
太田原 鈴木和雄

月日が過ぎるにつれ山手線のラインが少しずつ細くなる
仙台 狩野和紀

張りつめた一本の糸たゆませて今週の業務をデスクに置く
諏訪 藤森あゆみ

食欲のわかぬ夏の夜カクテキの真赤な辛さ味覚をさます
一関 貝沼正子

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太陽はいま(未来山脈第364号より抜粋)

亡き人の好物鰻が届く土用の牛の日 逝って七年友ありて
岡谷 三枝弓子

温かい雨にうたれてじっと居る 心よ立て わたしの心よ
下諏訪 笠原真由美

夜中に歌を思い付き起き出して机に向かう老いの独り暮らし
太田原 鈴木和雄

ギリギリの人生どこで踏み外したか写らない写真機のレンズの向こう
藤井寺 近山紘

猫の背に似た丸い猫城址ユニークな城の名は山容から
北九州 大内美智子
脳みその片隅までも探索する 宇宙にはいない神の痕跡
東京 木下海龍

眠りつけなかった朝の目覚めカーテンの隙間から祈りのような光
札幌 西沢賢造

「二葉館」女優貞奴になりきり螺旋階段下りてみる 老女の寄り道

愛知 川瀬すみ子

朝の熱っあつのコーヒーふうふうと 今日の命の活力
諏訪 百瀬町子

一字抜けても変わってしまう内容 短歌のこわさと難しさ
岡谷 佐藤靜枝

「宅老所かけはし」でぼた餅を作る十名がビニール手袋をして

飯田 中田多勢子

四季折々 高島易断編集の暦本めくる 半信半疑でも人生ガイド
大阪 與島利彦

私たちは地球という巨大な岩石の上で暮らす
青谷 木村草弥

灯篭に灯ともすは故郷(くに)の習いにて夜の墓地にて祖先と話す

神戸 粟島遥

人生は照る日曇る日降る日あり よろこびときめき葉月を迎える

京都 岸本和子

この人は今何を考えていますか 考えても人の役に立つのだろうか
千住 中村千

一瞬の輝きがみんなを魅了 目を凝らして息を止めて見る
米子 角田次代

夏空に浮かんだ雲がとけ出しそうな暑さ 飛ぶ鳥も紅に染まる夕刻
辰野 里中沙衣

メキシコ産の南瓜にエイと刃を立てる台所はゴッホの黄(きい)に染まる
岡谷 土橋妙子

目を覚ます 主の祈りから朝がはじまる神様の愛につつまれて
諏訪 上條富子

別れ別れになった友を思いつづった「群青」の歌思い込めて歌う
坂城 宮原志津子

暑さに弱くなったのか温度計を見るのを避けてやりすごす
諏訪 浅野紀子

伯父と叔母をそれぞれ見舞う 歩けなくなった二人を見て運動に励む父
諏訪 宮坂夏枝

子や孫の手をつないだ宵祭りは遠い夢 祭りばやしを聞く

下諏訪 藤森静代

風を受け止めネジバナ凛と立つ赤を誇示しながらも密やかに
木曽 古田鏡三

死者も生者も満面の笑みであれ 初盆の日の白い道
富田林 木村安夜子

あかるい空から雨が落ちる 軽く流してはならぬ六月二十三日
岡谷 唯々野とみよ

別になんだっていいやと思ったら楽になった御嶽海も勝った
箕輪 市川光男

汗ズタズタの野良着脱ぎ あおぐ夕陽働ける幸せ
福知山 東山えい子

少ないと物足りなく多すぎると大変 今年も部活漬けの夏だ
松本 下沢統馬

悲しみよ身を垂直にして流れゆけ 黒いコートの雨粒払う
一関 貝沼正子

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