会員の作品

「未来山脈」の会員の作品です。

いのち(未来山脈第376号より抜粋)

諏訪のうみ湖底に眠る縄文の狩人たちの声無き声を聞く

岡谷 三枝弓子

 

歌を詠もうか辺りを見まわす風も水もすべてが生きてくる

木曽 古田鏡三

 

あなた自身で窓を開けることもない海はガラスを透き通ってゆく

愛知 早良龍平

 

薩摩芋おいしいと言えば愛情入れた一本取ったと雅子さん

諏訪 河西巳恵子

 

小鳥の声に癒される朝心もスキップ空を見上げる

箕輪 市川光男

 

姉のように慕って四十年 土・日の茶飲み友その人はもう居ない

下諏訪 藤森静代

 

源氏物語の巻の名がせつない 触れれば落ちるか夕顔の花

千曲 中村征子

 

夫への気配りなし寂しさふっ切り行こう 未来山脈全国集会

福知山 東山えい子

 

高速道路が走らぬ吾妻谷を突き抜けて逃げ道を造り続ける

群馬 剣持政幸

 

今までに経験のない趣のある時間を頂く ファミサポの子供達より

伊那 金丸恵美子

 

筆力のはみ出し見事な絵手紙のつづきの“夢”を貰って会場を出る

岡谷 土橋妙子

 

今年も山の栗を拾って届けてくれたMさん 早速栗ご飯を炊く

飯田 中田多勢子

 

秋雨の滴したたる街路樹 菩薩のように立っている

大阪 木村安夜子

 

沈みゆく夕陽を追ってほころんで朝日にしぼむ瓢箪の白い花

岡谷 三澤隆子

 

気づいたら頬に涼風小顔の千日紅いつのまにぽふぽふ数を増やす

岡谷 柴宮みさ子

 

あっという間に一年が過ぎちらほら紅い桜葉目に染みる

岡谷 金森綾子

 

晴天の夏日に早朝から皮をひき祖母は瓢箪を仕上げた

岡谷 片倉嘉子

 

”茄子の花は千に一つの無駄もない”というが秋茄子食べたくてばっさり

岡谷 横内静子

 

この夏中そこにいたのねマムシグサ シダの葉枯れて頭を出した

下諏訪 中西まさこ

 

今夜は寒い布団のぬくもりは母のよう今日は彼岸の入り

米子 角田次代

 

思いがけない圧迫骨折に数センチの移動にも悲鳴がもれる

諏訪 増田ときえ

 

敬老の日 娘家族が里帰り 老父母の国勢調査をネット処理する

大阪 與島俊彦

 

コロナ禍にマスクする日々口紅を引かねば緩む口許かくす

一関 貝沼正子

 

地球を形成する数々の元素を生み出した宇宙の誕生

青谷 木村草弥

 

東京は怖いところだと聞いていたぬばたまの街に眠らない人々

北海道 古田匡希

 

屋根を打つ激しい雨音聞きながら佐渡への旅に心はずませる

原 桜井貴美代

 

そば畑白い花の向こうに北アルプス 雲を脇にかかえる

原 太田則子

 

小金の谷色を添えるコスモスの花 稲刈りをまつ

原 泉ののか

 

友人も家族も親戚も来ないいつもと違う夏がぼんやりと過ぎ去った

原 森樹ひかる

 

白い光を弾いてパラソルハンガーを開く 着古したTシャツばかり

松山 三好春冥

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太陽はいま(未来山脈第376号より抜粋)

夢の中にだけ現れる両親の海より深くかぶる帽子
愛知 早良龍平

罌粟粒ほどの種子を蒔く 五つの鉢にあふれる松葉ボタンの花
岡谷 三枝弓子

つきささる視線に顔をあげる 元気お出しと向日葵
原 泉ののか

熊除けにリンリンリンと鈴ならし人に出会えばちと恥ずかし
原 桜井貴美代

原村の気候にまさかの扇風機買い自然の風は勝てなかった
原 太田則子

一心不乱にただただ見つめている愛犬 しっぽがぷるぷる揺れている
原 森樹ひかる

アンパンマン コロナ姫を助けてあげて さみしくて心優しい女の子
山梨 岩下善啓

がんばれと声かけ続けたあの人が逝った 広島忌を迎えぬまま
群馬 剣持政幸

潔くも自信に満ちた名刺をいただいた「山崎正和」四文字のみの
京都 岸本和子

草を刈る音がする草の泣き声がする草の涙のにおいがする
岡谷 唯々野とみよ

夏の診察室は葉陰に昏く「久しぶりですね」とK先生がいう
下諏訪 笠原真由美

検査・指導・診察で半日が終わるこれがなくなったら私もあの世か
箕輪 市川光男

盆棚を作るのに夫は道具が重たくて運べない飾るのを息子に頼む
飯田 中田多勢子

猛暑の中親友の妻が逝ったとメールが届く今年一番の辛いニュース
藤井寺 近山紘

ひと抱えの花束を持って従妹がくる労りが嬉しくて目が潤む
岡谷 佐藤静枝

衣が上の「衣更」衣が下の「更衣」衣を変えるから「ころもがえ」
豊丘 毛涯潤

ピカマチスを知り大熊医院の院長先生は吾の診断の結果を見て青くなり
埼玉 清水哲

「クマ鈴を必ず持っていってね」早朝の独り散歩を心配してくれる
下諏訪 中西まさこ

短い命を燃やしつくした蝉の亡きがら 車が轢き去る夏の暮れ
大阪 山﨑輝夫

タイヤがない車が走ったら面白いだろなと頭の中が 信号待ち
愛知 川瀬すみ子

思いっきり抱きしめた夜の痺れを右の腕がおもい出している
横浜 上平正一

梅雨明けどっと押し寄せる暑さに畑仕事 下着ぐっしょり濡れる
岡谷 花岡カヲル

巣ごもりは6ヶ月目に突入し 今日も一人除草剤を撒く
横浜 福長英司

わが庭で今年の夏も見る花は まだ青いんだ白百合だけど
小浜 川嶋和雄

川の瀬音聞こえる湯の街 歩く人の姿は少なく土産店静か
辰野 里中紗衣

雨が降る土にしみ込む緑が育つ この生命こそ根っ子になろう
木曽 古田鏡三

風は未だに冷たい朝 いいことがありそうな そんな予感 きっと春の始まり
熱海 石川とみ

済んだ事は容認して振り向かず進む私の心改造計画の第一歩
大阪 高木邑子

愛しきれずに生かされる女いつまで経っても恋愛体質
諏訪 藤森あゆ美

 

※掲載されていた以下の作品は大木瑞香さまの作品でした。お詫びして訂正いたします。

天空に舞て来よ亡き姉よ さ緑の空天女の如く

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素足(未来山脈第375号より抜粋)

隣のじいが蒔いた豆むっくり双葉が土をもたげました
福知山 東山えい子

図書館の図書の貸出期間が短すぎる 今回もまた期間園長申請

大阪 加藤邦昭

決算報告終了! ソーダ水を飲みながら武田双雲の動画に爆笑する
下諏訪 笠原真由美

目に見えないコロナ収束なく一年の折り返し月に半夏生が咲く
下諏訪 藤森静代

きっと恋をしているんだ 七月の空を若葉が戦ぐ(そよ)
富田林 木村安夜子

復興に予算もボランティアも足りないと災害来ぬように神頼み
下諏訪 小島啓一

夏至から十日目が半夏生 今年はことさらに待った白い花
京都 岸本和子

わが地球の生誕は四十六億年前 地球への生物出現は 三十八億年前とか
大阪 與島利彦

今年も秋田の高校同級生からさくらんぼが ゆうパックで届いた
飯田 中田多勢子

特別定額給付金の十万円が支給されたと通知が来た
米子 安田和子

朝霧にぬれたトウモロコシかいてきて熱々湯気のつぶつぶぞろい
諏訪 伊藤泰夫

玄関の鉢植えの福寿草春を知らせるように花を開いた
茅野 平澤元子

ピカマチスの葉っぱをなでれば海超えて砂漠の粒が鉢植えについて
埼玉 清水哲

コロナ三満自粛に各行事はほとんど休止になる 空き時間は自由だが
岡谷 武井美紀子

梅雨空の林の中からホーホケキョトッキョキョカキョク二羽の鳥
東京 鷹倉健

卯の花は早くも廃れて凌霄花雨にからめる石堀つづく
大阪 篠原節子

ひとりで見た桜ひとりで登る山しみじみとひとりコロナが来てからは
北九州 大内美智子

梅雨も明けないのにセミが鳴き始める いつから夏と呼ぼうか
流山 佐倉玲奈

また雨が強くなってきて水たまり大声でうたっておどる
岡谷 唯々野とみよ

気付かぬままにかさねていた年齢 予期せぬ病がわが身にも
境港 永井悦子

コロナ姫の物語 やなせたかしだったらどんな世界を描いただろう
山梨 岩下善啓

咳たん息切れ 止まらぬ咳のために夜中に何度も起きていた夫
米子 笹鹿啓子

資格を取ろうと勉強中 土日は特に机から離れない
横浜 大野みのり

ブロードウェイ・ブギウギのマスクにつられ電車を下りると夕焼け
東京 金澤和剛

施設に入りちょうどコロナさわぎにぶつかって誰にも会えない
諏訪 上條富子

明治参拾弐年購入輪島塗御椀 五十個の椀を捨てるという
下諏訪 光本恵子

 

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いのち(未来山脈第374号より抜粋)

起こりには(硝子のコップが落ちた)音 張本人から傷つくための
愛知 相良龍平

りんご園の自販機が売る布マスク赤いドットの一つ購う(あがな)
一関 貝沼正子

古い手紙はダンボール五つ色あせた本は三百冊 古希の断捨離
松山 三好春冥

従兄弟が畑を耕しに来てくれる胡瓜やトマト野菜の葉は青々
岡谷 佐藤靜枝

ひと月休むと自分で決めたFB(フェイスブック) 旅の写真など投稿したいが今は自粛
下諏訪 須賀まさ子

変なの うるさがり屋のわたし蛙と鳥がゴッチャに聞こえる
千曲 中村征子

多芸多趣味の人生を送った知人の夫は七十五歳で旅立ったあまりにも早い
米子 稲田寿子

色さめた夕焼け雲と月が浮かぶ今夜の空は
茅野 平澤元子

山紫陽花に寄り添うライラック 雨の中ひっそりと濡れて咲く
岡谷 花岡カヲル

給付金を手に我慢したものひとつずつ ためらわず買える快感
諏訪 大野良恵

コロナ禍で日々の暮らしに暗雲が先行き分からぬ世界の未来
原 桜井貴美代

満ですよ五羽の子燕巣から落ちそう押し合いながら餌をねだる
原 太田則子

はるちゃんの鯉幟 元気いっぱい青空を泳ぐおよぐ
はら 泉ののか

我が家の道のまん中にポツンとさいた小さなワイルドデイジー
原 森樹ひかる

今年も嫁から娘から届くはなやかな母の日の花心遣いが胸にしみる
岡谷 武井美紀子

要介護にお世話になるも気恥ずかしい 人様の面倒も見ないで
茅野 名取千代子

遅日 感じる夕ぐれに 夏のおとずれがすこしずつ聞こえる
鳥取 小田みく

格差社会の底辺の娘がいう私にまで十万円くれなくてもねと
大阪 高木邑子

緑がそよぐ春がきた百姓も始まった竹の子さん顔出せや
木曽 古田鏡三

コロナ緊急事態宣言から解除まで 長かったひと月半
諏訪 宮坂夏枝

「隣の芝生は青い」というのは どういうことだろう
青谷 木村草弥

寺のきざはしに腰をおろす老人二人彼岸此岸の風に吹かれて無言
岡谷 土橋妙子

さり気なく肩を寄せてくるひとは爽やかな千草の匂がする
横浜 上平正一

正午過ぎの不思議な光景 帰る生徒と登校する生徒が交差している
京都 岸本和子

大気が瘴気に満ちている みんながマスクを着けている
山梨三郷 岩下善啓

朝起きる猫の仔来たり転がって「撫でていいよ」と声が聞こえる
神戸 粟島遥

コロナ休校だ 今宵も親子でパタパタ縄跳びの音する夕焼け小焼け
大阪 山﨑輝男

コロナ禍に逝きし友にも会えずして一夏(いちげ)過ごせど救いなきまま
東京 木下海龍

三キロを歩いて此の花確かめに 満開にはもう少し
岡谷 唯々野とみよ

ピカマチスの葉っぱをなでれば海越えて砂漠の粒が我が鉢植えについてをり
さいたま 清水哲

以前のように身体が動かない なかなか短歌もできない悲しさ
埼玉 赤坂友

助手席の母を横に久しぶりにハンドル握る ちょっと爽快
横浜 大野みのり

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太陽は今(未来山脈第373号より抜粋)

薄翠のはなびらひらき六月の桜がひらき散った六月
北海道 吉田匡希

八方塞がりが心に影を落とす ロールシャッハの不定形の染み
京都 毛利さち子

春のカラス一羽 幸せな住処めざして飛んでゆくのだろうか
札幌 西沢賢造

一番に逢いたい人はお父さん! は本当 でも自由も良い
福知山 東山えい子

黄色の水仙が咲いたよ 車椅子の母に窓越しの風を見せる
松山 三好春冥

地域集団作る媼ら家よりいいと悪口雑言餌に暇もて余す
諏訪 河西巳恵子

庭先で老いが転ぶ大丈夫かと言えば 大丈夫と言う谺でしょうか
豊丘 毛涯潤

夫が逝って一人では耐え難く居候をさせてもらう姉の家
岡谷 佐藤靜枝

しきりに動きたそう 動けない動かない 変だ ひょっとして
奈良 木下忠彦

コロナがね原村にも来たんだってと口から口へ実(まこと)しやかに
原 桜井貴美代

雨上がり陽を受けた水たまり二羽の雀が水かけごっこ
原 太田則子

トラクターの音が響く誇らし気に光る掘り起された土
原 泉ののか

灰色の森から生命(いのち)みなぎる緑の森へ まさしくゴールデンウィーク
原 森樹ひかる

乗客の来ない今年の連休に片付けに集中する毎日
諏訪 浅野紀子

咳をしてもコロナ? くしゃみが出た 飛沫が飛ぶ マスク マスクと騒ぐ やれやれの毎日
東京 上村茗

花冷えの夜 牧師の許可を得て暗闇の礼拝堂で一人祈りを捧げる
大阪 加藤邦昭

せっかく髪染めたのに友だちにも会えず学校へも行けない息子
諏訪 大野良恵

社会の機構 人の情コロナウイルスみな喰い荒らす
諏訪 松沢葉子

予定表 あれもこれもが中止で消され 通院日だけが残ってる
坂城 宮原志津子

歳食って生きていると何が起きても叉来年の春うららの楽しみある
藤井寺 近山紘

みんな自分の優位性を強調し自信満々な発言私はカッコ付けてもだめ
下諏訪 須賀まさ子

庭のあちこちに二寸足らずの可憐なすみれ微風に首をふりふり咲く
岡谷 花岡カヲル

曾孫十九歳の誕生日大学も決り入学を待つばかりでも行かれない
東京 保坂妙子

高齢者になって腕力脚力腹筋の衰え切実に感じる昨今
岡谷 武井美紀子

耳障りなのは「躊躇なく」と「スピード感」偉い人ほど言い訳がましい
横浜 福長英司

零下の朝は寒いけれど窓越しの日差しにホッとする
茅野 平澤元子

パソコンを替えたついでにオフィスを更新するのもなりゆきでした
青森 木村美映

集落の鯉幟あがる空にウイルス吹き飛ばせと祈る
諏訪 宮坂きみゑ

一日に何度となく繰り広げられる姉弟げんかそれでも姉弟がいていい
流山 佐倉玲奈

フランス コンクのサント・フォア教会の「タンパン」
青谷 木村草弥

新聞にテレビニュースはウイルスだ コロナコロナとほんと疲れる
小浜 川嶋和雄

予定なく五月のカレンダーは真っ白 スケッチブックを取り出す
米子 角田次代

残雪の仙丈に向かって力強く泳ぐ鯉幟病を乗り越えた私を励ます様に
箕輪 市川光男

青嵐渡るや八洲コロナ災 蝦夷の國から琉球までも
東京 木下海龍

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素足(未来山脈第372号より抜粋)

しがらみ年ごとに外して古希 瀬と淵の際も知らず逆らう
松山 三好春冥

八幡の杜の木々に淡い花を咲かせるなごり雪 華やか故のはかなさ
岡谷 三枝弓子

とうに忘れていた約束靴の紐がほどけているのを見て思い出した
藤井寺 近山紘

コロナで休校ドキッ! 孫ら三人預かって ありそう
福知山 東山えい子

歌集「信天翁」が届く 病気療養中の私には意味深に響く歌集名
大阪 加藤邦昭

山から里へ降りて来る朝もやの中 車走らせポストへ短歌投函する
辰野 里中沙衣

初詣での階段のぼれば蹌踉(よろ)けてる八十間近の萎びた青年
横浜 上平正一

世界中に広がるコロナウイルス 人々の流れ密度の濃さを再確認する
坂城 宮原志津子

冬物をまとめて車に積み込むこの冬物来年も着るつもり自分に問う
東京 鷹倉健

居心地悪そうに並んでいる玄関前の雪かき春に追われて
諏訪 大野良恵

また泣ける何が悲しいわけじゃない いたわりなのか確かな助言
諏訪 伊藤泰夫

春の下弦の月 オリオン座瞬く大きな窓の真夜中
諏訪 河西巳恵子

生きる資格が無いかもしれないのは分かっているそれでもささやかな幸せを
つくば 辻俱歓

放たれて何処へと限りなく夫と行く 深山は二人を飽きさせない
岡谷 横内静子

冬枯の我庭に春一番告げるサンシュユの黄花道行く人も振りかえる
岡谷 三澤隆子

ここからは見えないはずの富士山を蜃気楼のように雲つくり出す
岡谷 柴宮みさ子

海の近くに住みたい 僕の住む長野県はどこを見ても山
松本 下沢統馬

ささやかにバレンタインデーに込めた愛ふぞろいのまま箱に詰め
岡谷 金森綾子

ふきのとうを夢中で採ってザルいっぱい天ぷらのほろ苦さ
岡谷 片倉嘉子

人のいないスクランブル交差点に歩行者信号が点滅している
下諏訪 笠原真由美

暗いニュースの日々楽しいことを考え免疫力アップ 身を守りながら
米子 角田次代

ギャーギャー騒ぐ外の光景は上の空テレビ点ければ新型肺炎の話題
群馬 剣持政幸

駐車場にぽろんっと一つ苺が日向ぼっこ 誰にでもない赤い孤独
愛知 川瀬すみ子

目が覚め短歌をつくろう目がちらちらして字が書きにくい
諏訪 上條富子

かわいくないはなやかじゃないその名に負けてる姫踊り子草
岡谷 唯々野とみよ

短い眠りから覚める 目を閉じて二度寝の眠りのふりをするも
札幌 西沢賢造

寝れ親しんだ環境に不安がつのる 得体のしれぬ外菌で
境港 永井悦子

仕立てたままで箪笥に三十年 米寿に着よう 仕付けをほどく悦び
岡谷 堀内昭子

ならんだならんだチューリップ頭ゆらりゆら春風が優しくなでる
岡谷 伊藤久恵

春耕の音も賑やかに深い眠りから覚めた大地 いよいよ出番
岡谷 林朝子

気づかなかった電話・メール「会えないんだから電話ください」と
下諏訪 須賀まさ子

仰向くと水を讃えた桜花が今日も昨日も しずかに珈琲すする
富田林 木村安夜子

トントントンと朝の階段 ソレソレのかけ声と手すりにすがる夜
長野坂城 宮下久恵

今 午前五時 目覚める事が余り嬉しくないような気持ち
太田原 鈴木和雄

仮定された上空までの奥行きを永却見上げた 食卓に就いて
愛知 早良龍平

土のなか黄色い頭のふきのとうぽつりぽつり語り始める
下諏訪 光本恵子

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いのち(未来山脈第371号より抜粋)

朝の通勤電車 座る確率が上がる 喜ぶ自分がいる
京都 岸本和子

おやすみキテイー おやすみ 願えば叶うってどこかでまだ信じている自分
北海道 吉田匡希

友より届いた野菜の宅急便菜の花の蕾が早春(はる)をつれて
北九州 木内美智子

杖つく人も多い 何の因果で下船できぬか苦悩に満ちたコロナ船
大阪 山﨑輝男

コロナ騒動 何もかも息苦しい ウィルスと菌のちがいを娘より学ぶ
東京 上村茗

そろそろか六つ数えて深呼吸 われの怒りを拳に潰す
一関 貝沼正子

夜明けの西空に低くオリオンを労り抱くシリウスの姿への望郷
岡谷 土橋妙子

節約の限界越え背中を這う 黒髪染めて若作り
諏訪 大野良恵

秀峰大山の道ぞいに落葉や雪の下から春を待ち芽を出すふきのとう
米子 稲田寿子

さようならお元気でね 十年間の物語を胸に抱き締めて旅立ちます
伊那 金丸恵美子

また私の心臓がウトウト眠る身体の熱がなくなって大騒ぎとか
箕輪 市川光男

新型肺炎患者が来るのは覚悟の上と病院受付の娘は気丈に振る舞う
大阪 高木邑子

下諏訪は温泉施設が多く有り日々利用して長寿の助けに
下諏訪 小島啓一

図書館で親に巣から落とされたコサギを小学生の娘がひろってきた
諏訪 宮坂夏枝

そばに佇んでいるノボロギク 貴女がそばにいるような気がして
つくば 辻俱歓

凍りつく湖面に石を投げてみる音も立てずに転がって消える
原 桜井貴美代

買い物もマスク無しでは怪しまれ人込み避けて静かに暮らす
原 太田則子

青空にキラキラと舞う風の花 妖精たちの声きこえくる
原 泉ののか

揺れたり休んだり 葉をつけない木々たちの裸のおつき合い
原 森樹ひかる

若者の三学期春はそこ迄来てるのに思いもよらぬコロナウイルス
諏訪 宮坂きみゑ

児らの声がはねる赤いボールが跳ねるスニーカー跳ねる
岡谷 唯々野とみよ

こんな事態になる前に注文していた専門書「ハイデガーとラカン」
下諏訪 中西まさこ

花瓶に注ぐきれいな水道水 スターチスの紫が華やぐ
富田林 木村安夜子

赤い花びら机と畳に散らばる 鮮やかなさまの真冬日
札幌 西沢賢造

ウィルスが在庫セールのごとく砂漠にした東京・銀座
さいたま 清水哲

うっすらと地上に雪が残る朝二羽の白鳥はひっそりと北帰行する
岡谷 三枝弓子

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太陽はいま(未来山脈第370号より抜粋)

サンルームのしゃこばサボテン咲きさかり令和二年の温い正月
一関 貝沼正子

一つの事を続けるのは長い年月を費やす リンゴに赤い果肉微笑む
伊那 金丸恵美子

蘇東坡の詩を書き写す キャンパスノートに横書きで
下諏訪 笠原真由美

どの分野にも若い才能 習熟伝統を越えて新しい息吹
奈良 木下忠彦

冬だ冬だと梢がさわぐ余分なものを捨てた木々の確かな生
諏訪 松沢葉子

日の暮れるのが少し遅くなった なんでもないことが今日は嬉しい
京都 岸本和子

夫の腰がぬけて動けない どうしようもなく切羽詰って救急車だ
飯田 中田多勢子

鍵穴も見えない暗い周辺 街灯がぼんやりと道路を照らす
岡谷 佐藤靜枝

始まりはいつでも良い 今年で三度目になる巡礼の旅
鳥取 小田みく

あ~あ頭はハゲるし腹は出る腰は痛んで肩も張る世の中闇だ
箕輪 市川光男

スキー場に雪は無いがすがすがしい白い山を見ながら草をとる
米子 稲田寿子

思い出いっぱいの城崎西村屋に遺影の夫を連れていく もうすぐ一年
米子 大塚典子

毎年めぐってくる誕生日なのに毎年毎年祝ってもらう
岡谷 武井美紀子

一月の雨が音をたてている 雪でない安堵と雨である不安と
岡谷 唯々野とみよ

悪魔っ祓いやどんど焼き町や村も楽しくやる小正月
諏訪 宮坂きみゑ

寒空に咲くロウバイに足を止める 持ち主と話が弾む散歩道
下諏訪 藤森静代

日本歴史の奥ざしき 京都盆地に愛着わく 周年伝統行事・盛大
大阪 與島利彦

頭の上の電線はホント頭がいいんだ 明細書がまっすぐ通過していく
千曲 中村征子

ひさしの雪が朝陽にとけて庭石をうがつ大寒の朝
岡谷 片倉嘉子

朝のラジオ体操 じゃんけんゲームに加える二人の新たな試み
岡谷 金森綾子

なだらかに整えられた植込みを藁帽子はさわさわとたどる
岡谷 柴宮みさ子

つつがなく暮らした我家の一年だるまの目入れ式に感謝の締めとなす
岡谷 三澤隆子

青空に連凧が垂直に上がる 今年はきっといいことあるよ元旦ウォーク
岡谷 横内静子

プリンタはすぐに壊れるものらしくあえて最新機能は追わない
青森 木村美映

探し物をしていたら目的物は見つからず出てきたのは昔の未来山脈
東京 保坂妙子

誕生日ショートケーキは六種類七十八歳の言葉も冴える
東京 木下海龍

今頃は友の出棺の時 テレビを消し自宅の居間より手を合わせる
大阪 高木邑子

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いのち(未来山脈第368号より抜粋)

シャワーヘッドから生まれた水が何にも触れずに排水される
名古屋 早良龍平

僕と君と似た者同士のふたりだね男と女の違いあるけど
下諏訪 中西まさこ

もみじ浴の京都清水寺 元年の漢字は「令」に森貫主の揮毫アート
大阪 與島利彦

一首も書けなかった夏 作りかけた習慣が崩れていく
京都 岸本和子

不幸なまま幸福のままでは終わらないという人生 やっと普通な今
下諏訪 須賀まさ子

「ありがとうございました」と一日に百回くらいは言ってる仕事
諏訪 藤森あゆ美

娘の子五歳と三歳七五三を一緒にやる兵庫加古川の日岡神社
岡谷 武井美紀子

娘に誘われて地図にのっていない御射鹿池(みさかいけ)を目ざし登って行く
岡谷 花岡カヲル

健康教室の集いは笑顔で始まり笑いで終わる高齢者活躍の場
米子 稲田寿子

小鳥のさえずり ゆったりとした旋律「自律神経にやさしい音楽」をきく
諏訪 宮坂夏枝

青空にぐらぐら燃えるピカマチス認知症治療のジューズに凝れ
さいたま 清水哲

ラグビー四強はイングランド ニュージーランド 南ア・・・大英帝国だ
太田原 鈴木和雄

年取れば丸くなるかと思いきや協調忘れた老人会
北九州 大内美智子

最後まで寄り添えた安堵の思いか 亡夫を時々忘れる日もあって
大阪 高木邑子

漢詩の中国語朗読でいろ鮮やかな山川草目心に沁みる
大阪 山﨑輝男

わずかに残った葉がゆれる音もなくこきざみにゆれる
岡谷 唯々野とみよ

チャラチャラした女子高生より真面目に身体を受け容れる女性の尊さ
つくば 辻倶歓

連れ合いに声かけをするウォッチング壺坂霊験記ここに深い愛
諏訪 伊藤泰夫

北風に枯葉舞い散る最後の一葉小枝にしっかりしがみつき
東京 鷹倉健

秋晴れの日山友二十一人はマイクロバスで三瓶山登山に出発する
米子 安田和子

八十七歳のトラクター坂道に横転 勤しむ日々いくつもの物語
千曲 中村征子

台風が三十近くも発生する 海水をたぎらせたのは人間のしわざ
奈良 木下忠彦

炭鉱(やま)おとこ代表していた町会議員閉山反対つらぬいて

札幌 石井としえ

多忙ときめきの無いまま新短歌(うた)出来ず散歩の枯葉ふみしめる
鳥取 小田みく

石川英吾様 鹿沼市千渡の石川家にごりっぱごたんじょうをなさる

鹿沼 田村右品

一円不足で戻ってきた原稿 〆切に間にあっていたのに
東京 上村茗

三十年ぶり ランチ会のお誘い仲間の顔思い浮かべながら心がおどる
坂城 宮原志津子

晩秋の午後の黄色い光に照らされ街も人らもきいろく染まる
京都 毛利さち子

言葉より先に涙があふれ出る 洪水の街 流される犬
一関 貝沼正子

ロンドンから北に電車で一時間 ケンブリッジに着く
青谷 木村草弥

我が家の正月準備は当番制に子達の住む地で順番に
下諏訪 小島啓一

淡い淡い靴の紅いろにじみいでて知らない街の歩道を染める

北海道 吉田匡希

生まれは大町 松本の茶道の先生に気に入られて名古屋に
諏訪 上條富子

 

詳細

太陽はいま(未来山脈第367号より抜粋)

千羽鶴を贈ったのは半世紀前 折り方を忘れた指をあたためる
松山 三好春冥

冷めた湯船に熱湯を足す 日常は常に刺激を待っている
諏訪 藤森あゆ美

建設中の五階建てビルこの夏をグレーの幕が家の気塞ぐ
一関 貝沼正子

娯楽館おんこが目じるしみんな集まる炭鉱(やま)の楽しみ芝居に映画
札幌 石井としえ

わが国二度目の夏季五輪―世界平和記念祭典真近わくわくする
大阪 與島利彦

花水木が紅く染まり銀杏の黄色が鮮やか 山茶花が一杯に花弁を開く
伊那 金丸恵美子

伸びて来た水菜に屈んでものを言う生前に親父が春にしたこと
豊丘 毛涯潤

あれに良しこれに良しとCM踊る サプリメントは魔法使いか
坂城 宮下久恵

朝霧の中日輪が消える諏訪湖マラソンランナー出揃う
諏訪 宮坂きみゑ

秋宮境内の石灯籠 苔と枯葉を載せて秋のおしゃれする
下諏訪 藤森静代

文化の日にふさわしい朗吟の夕べ 夫も吟詠し盛り上げる
岡谷 佐藤靜枝

秋明菊の淡い紅色 吹き抜ける風は涼しくて散歩へと誘う秋の一日
辰野 里中沙衣

刻々と映し出されるテレビ画面に言葉を失う 何ということだ
坂城 宮原志津子

恐ろしげな雲動く 日の光にやわらかく包まれ見ている
岡谷 唯々野とみよ

遠目にもそれと知る百日紅 真赤な花ふさ二階も超えるいきおい
岡谷 三澤隆子

気がつけば毎朝庭を動かしている 根の張るものは選別される
岡谷 横内静子

「オメェなんて言わないの」 さらに連呼する三歳の孫娘
岡谷 片倉嘉子

歌集『言がたり』に重なる幾つか きっといいことあるよ貴女にも
岡谷 金森綾子

グラスに揺れる秋桜 歌会のいつもの席にかすかなけはい
岡谷 柴宮みさ子

瀬戸芸で賑わう瀬戸航路チケット待ち時間二時間三便をゲット
米子 角田次代

愛隣会館が取り壊される 変化に対応出来ない弱者を忘れないで
大阪 高木邑子

カーテンの襞を泳ぐ鳥の影夜になったら全部消えた
名古屋 早良龍平

さようならを言う覚悟はできている 当てのない風にちぎれた涙
諏訪 大野良恵

‶おとうさんの読みあたったよ〟吉野彰ノーベル賞の新聞供える
米子 大塚典子

十八の珊瑚の肌に紅をさし君を待てば ああ ああもう冬
北海道 吉田匡希

マニュアルがないとできないという あればあなたでなくてもいいのだよ
京都 岸本和子

ほうき草に触れながら夏から秋への日を浴びる ほしいな草ぼうきひとつ
千曲 中村征子

ユーモアで笑いを誘う講演を終わりまで聞いて帰途につく
下諏訪 小島啓一

シャガール展の異次元の世界を見て浮かれて求めた高額の本一冊
岡谷 土橋妙子

いつもの鉛筆で言葉をなぞる ひとりだけの海の波
富田林 木村安夜子

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