会員の作品

「未来山脈」の会員の作品です。

素足(未来山脈2022年5月号より抜粋)

読み疲れて部屋専用の露天風呂 ヒノキの湯槽に入れば雪 ちらちらと
下諏訪 中西まさこ

八時です朝のご飯はヨーグルト リンゴ半分薬はおやつだ
小浜 川嶋和雄

102歳で旅立つ伯母の告別式 いやというほど簡略で静か
京都 毛利さち子

夜空いっぱいの星のシンフォニー タクトのように身体をゆらす
岡谷 征矢雅子

米洗う窓辺の鼻先 すいせんのののかに香る春近し
鳥取 小田みく

四分の一世紀を数々の勉強会に参加する人生 悔ゆる事はない余生
岡谷 土橋妙子

青い鳥 ルリキビタキの声忙し春の野山を歩いて行けば
静岡 鈴木那智

二月七日は亡父の命日 三姉妹で猫柳金仙花を携えて墓参りに
飯田 中田多勢子

さみしさを背負った風が指先を掠めて通りすぎてゆく
横浜 上平正一

ウクライナの詩人シェフチェンコに我は尊敬に熱し我の尊敬は熱し
さいたま 清水哲

日向の業績より心の奥底に潜む温情を宝とする
仙台 狩野和紀

コロナオミクロン株が保育園で猛威をふるう 自粛中の孫たち
諏訪 宮坂夏枝

ひよこ豆のドライカレーを作りつつカーリング一試合を見終わる
下諏訪 笠原真由美

蕾のほころびに連れ歪んだわが身も解れだす終わりの見えぬコロナ禍歩む
境港 永井悦子

窓越しの椅子に座り粥すする 返り咲きのシクラメンはメラメラ
下諏訪 光本恵子

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太陽はいま(未来山脈2022年4月号より抜粋).txt

冬衣を纏う八ヶ岳の峰々を桜色に染める冬至の夕日
岡谷 三枝弓子

あんなにもあんなにもこだわってたのに 共通テスト古文漢文むずかし
京都 岸本和子

既婚者になって間もなく私の名は蝕まれそして砂漠の砂
諏訪 藤森あゆ美

揺るぎない一日の心の澱を吐き捨て思いを積み重ねる
札幌 西沢賢造

戸を叩く声!! 何?と外へ出ると山小屋から炎が
福知山 東山えい子

いつまでと分からぬものに戦きて大寒の日本赤くふるえる
一関 貝沼正子

寒入りし御神渡り見守る宮司らのたゆまぬ努力を讃えたい
下諏訪 藤森静代

寂聴尼が呼ぶように慎太郎が逝くチャーミングな笑みに善悪を精算
群馬 剣持政幸

毅然と咲く水仙にオミクロン株位でうろたえるなと諭される
北九州 大内美智子

大股で急ぎ足がいつの間にか小股でゆっくり気合を入れる
米子 角田次代

風の皴しっそり揺れる朝 小鳥が三羽 窓の向こう
富田林 木村安夜子

TV“サンドのお風呂…”ゲストの歌舞伎役者にチャンネル合わす
米子 大塚典子

感染四億死者六百万のコロナ世界大戦終戦はいつ
大阪 山崎輝男

陽射しが我が家の床暖房 コロナ禍二度目の新しい年
諏訪 増田ときえ

夫の友の賀状に断捨離を始めたとあり私達も始めることにする
米子 安田和子

イチゴのキャンディー口移しする都会の吐息に身をよじらせて
岡谷 今井菜々美

三十年剪定作業で着てきたジャンパーは穴だらけ でも今年も着た
箕輪 市川光男

リースを外して寒々とした壁に丸い日焼けの跡が残る
諏訪 大野良恵

節分が近くなれば恵方巻 新聞チラシは食欲そそる
小浜 川嶋和雄

お~ぉ寒いさぶ~い 大寒小寒この冬は大入道がやって来た
千曲 中村征子

妻の入院で日常が崩れるひんやりとした夜のいつもと違う空間
藤井寺 近山紘

実家から届く可愛い一人前の御節料理 大晦日 朝杯はリキュール
諏訪 河西巳恵子

初詣くだる階段うしろから我につきくるわれの足音
横浜 川平正一

コロナ終息どころかますます猛威を奮ってついに三年目に突入
東京 赤穂正広

歌に出せない苦しみ 歌にかけない悲しみもある ファジーに書くのは否か
東京 上村茗

寒風に舞い上がる枯葉たち着地を互いにためらうように風と遊ぶ
岡谷 土橋妙子

二十キロ肥料なんとか積んだ 三十キロの米車に乗せてさる娘
木曽 吉田鏡三

 

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いのち(未来山脈2022年3月号より抜粋)

部首に総画に音訓索引 私は何を探しているのか
松山 三好春冥

魂が漆黒の闇に彷徨うから 加茂川を下ろう南へ行こう
京都 岸本和子

風に吹き寄せられた落ち葉 従来の動きに右往左往しては鎮もる
京都 毛利さち子

老いてこそ一層鍛えたい からだとこころ 人生崩れぬように
奈良 木下忠彦

体調は大丈夫かとシニア大の友 ドリンクの瓶の確かな重さ
岡谷 三枝弓子

変らない新年 変ったのは食べるのに欲がなく年を感じる始まり
東京 上村茗

初孫娘 寅年生まれ 昨春東京渋谷のIT企業就職コロナ元気
大阪 與島利彦

夜空に輝く星 幾千億個もの原子炉だと思うと凄まじい
岡谷 征矢雅子

ルービックキューブのように移動させ冷蔵庫から保存食とり出す
米子 大塚典子

急な病で妻が入院回復の顔も見られぬコロナ禍の面会謝絶
藤井寺 近山紘

大きな顔して夕食後に居座る時間という奴 脇の本を縦にもしない
千曲 中村征子

十月下旬に種を蒔いた菜の花が年末に咲き始めた
福山 杉原真理子

宇宙滞在を果たした前沢さんいいのよ自分で稼いだお金ですもの
大阪 高木邑子

待っていた双子流星群 瞬きを耐え夜空に食い入る(R3・12・14)
原 太田則子

年賀状今年で仕舞いと旧友から一人またひとり遠ざかって行く
原 桜井喜美代

寒風にゆらいでいる枯れた茎 地にロゼット広げて光合成
原 泉ののか

孫のボクシングの試合のたびに諏訪大社に祈願する 怪我しないよう
原 森樹ひかる

医師から厳命されている日付変更前の就寝 今日もまた破ってしまう
大阪 加藤邦昭

ピカマチスの力活かしてオミクロン株の感染拡大にピリオドを打たん
さいたま 清水哲

伊豆房総の海に憧れを抱きながら 寒中の倦怠を過ごす
松本 金井宏素

コロナ禍のなか優雅に踊るドガの名画の「踊子」の私のマスク
岡谷 土橋妙子

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素足(未来山脈2022年2月号より抜粋)

長男は最新の医学をと東京で開業させた俺のような田舎医者ではなく
大田原 鈴木和雄

待ち遠しかった冬至が過ぎて日が長くなる 単位は古来より米一粒
松本 金井宏素

冬陽にラベンダーの銀葉が輝く 松の葉をたくさん食べて眠るムーミンたち
下諏訪 笠原真由美

水野昌雄先生にこれから君たちの時代だと言われたのは二十一年前
箕輪 市川光男

夕暮れに飲み込まれるまでの葉っぱたち 紅葉の朱空にひろがる
富田林 木村安夜子

かけられない電話は貯まるばかり 時間の渦に消える無念の情
千曲 中村征子

どんな悩みももてなしてくれそうなハンモックがしっとり垂れる部屋
諏訪 大野良恵

秋晴れのキャンパスに浮かびくる「紅葉」は小学唱歌
諏訪 増田ときえ

まさかの娘の入院 朝保健センターに電話し夕方現実となった
諏訪 宮坂夏枝

規則正しい生活の中で待ったをかけるもう一人の自分
仙台 狩野和紀

二年ぶりのピアノの発表会 園年長の息子にとっては初舞台
流山 佐倉玲奈

八ヶ岳の美しい稜線 の山は日増しに紅葉し秋を装う
岡谷 花岡カヲル

近所の犬のモコ通るたびうれしくてキャンキャン吠える
諏訪 宮坂きみゑ

たっぷりの大地 日光 水 空気 そして愛情 新鮮野菜
神奈川 別府直之

初めての流れ星 願い事まにあわずあわてて手を合わす
鳥取 小田みく

ハウルの骸から現れたムクロは姿を変えて楓となり焔となって蘇える
下諏訪 岩下善啓

九十六歳の恩師を囲む食事会 穏やかな面に長寿の秘訣みる
大阪 山﨑輝男

植えた朝がお生えた朝がお軒下で今日も空を見ている
木曽 古田鏡三

後期高齢者にと勇んでみるが先が見えないコロナの行く末
米子 永井悦子

睦月に冴えわたる中天にブルーに包まれた生絹の月は一筆の描写
岡谷 土橋妙子

買い物に出かける時間に重くなり地平線へと溜まる薄雲
愛知 早良龍平

侘助や星降る庭に白々と可愛いチャペルを愛しみて立つ
東京 木下海龍

新月の見えない光 夜想曲(ノクターン)を人類有史全ての死者へ
北海道 吉田匡希

白い雪に注ぐ日の光と青く澄みわたる空 冠雪大山もあざやか
米子 笹鹿啓子

カサカサと音立て歩く枯れ葉道 重なり重なり重なっている
諏訪 藤森あゆ美

冴えわたる星が湖に降ってきそうな夜 宇宙の一角に吐息する私
下諏訪 光本恵子

 

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太陽はいま(未来山脈 2022年1月号より抜粋)

氾濫する疑問符に応える感嘆符は幾つありますか やっと秋です
松山 三好春冥

荒物屋の店頭の鎌におう日よ何事もなく暮れるこの街
一関 貝沼正子

斎場に供える花を胸に嫁は泣きながら前を歩く
下諏訪 笠原真由美

バドミントン奥原のポスターに向かってガンバレ 今度は金メダル
箕輪 市川光男

コンバインの埋もれた跡を均す 備中鍬スコップこの老体
木曽 古田鏡三

枕元の明かりに浮かぶ文字たちは表情豊かに語り始める
諏訪 大野良恵

錦秋の十月三十日 慈母の命日十回巡る 享年百三歳の人生行路
大阪 與島利彦

青空の下 自転車をこぐ 地元で棟方志功展 久しぶりの幸せよ
東京 上村茗

八十代のスタートライン 願うことは世界中が平和であるようにと
坂城 宮原志津子

思い思いの表情で信号を渡る解除後の赤提灯を求めて動く人人人
藤井寺 近山紘

りんとした朝の空気にふれたくて卵を買いに走るコンビニ
諏訪 宮坂夏枝

一点の黒い烏に朱点の柿の加筆たくさん我一人で見る
埼玉 木村浩

朝もやの中から浮きでる色 文字の刻まれゆく無・タブララサ
岡谷 白鳥真砂子

暮れ行く秋の山合に爽風に煽られながら飛び交う赤トンボ
東京 赤穂正広

小さいムラサキシキブは実を付けて 紅葉待つかなそれとも雪を
小浜 川嶋和雄

善光寺が草津温泉より下に見られることはないか紅葉が迫る
群馬 剣持政幸

通り過ぎていたキウイフルーツの葉に触れる 大きい大きい
千曲 中村征子

里山で竜胆を手折ってみたいそれだけの夢も無謀と嗤うか車イス
大阪 高木邑子

生理前の女の子みたいなこと言うんだねってアナタ 華は明日咲くはず
岡谷 今井菜々美

しばらく静かだった氏子たち七年目となれば血がさわぐ御柱祭
諏訪 宮坂きみゑ

県内歌壇の役職引退で降ってきたカルチャー講師というお仕事
青森 木村美映

数年に一度の皆既月食 必ず思い出すのは娘を生んだ日のこと
流山 佐倉玲奈

母親・花子は飛び越えられぬ存在 私は小さな魂を精一杯膨らませて生きてきた
福岡 吉田桂子

雨音で寝入り雨音で目覚める どこかに虹が出るのだろう
札幌 西沢賢造

殺したいくらいの恋がしたいねえ身に余るほどの色滾らせて
北海道 吉田匡希

人と人 物理的距離 こころの距離 コロナ禍を機に見つめ直してみる
神奈川 別府直之

連山は冠雪居間にハイビスカスが咲いた 葉も淡い紅葉に
松本 金井宏素

 

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素足(未来山脈 2021年12月号より抜粋)

どうだどうだと迫り来る連峰 八ヶ岳ブルーの空を背負って
岡谷 三枝弓子

人気のない駐車場に秋茜の群れが飛ぶ東の方向に応仁天皇陵の森
藤井寺 近山紘

情け容赦なく降り続く大雨 災害級とテレビが叫ぶ
諏訪 大野良恵

亡命を望む選手と知りもせず試合を観ていたその前日の
下諏訪 笠原真由美

九月の風に鳴く蝉は命を削り声をからして叫んでいる
横浜 上平正一

真っ直ぐに歩もうにも曲がりくねった臍が待ったをかける
仙台 狩野和紀

変わりゆく秋雲に思い巡らし生かされたいちにちに喜びが
下諏訪 藤森静代

未来への夢ある人は不動心かつ希望に満ちて心は広い
明石 池たかし

もうたくさんこれ以上いらない 時空と同一歩調の新しきもの
千曲 中村征子

「サンタなんていないんだよ」魔女は私に真実を教えた
山梨 岩下善啓

ひとりぼっちに耐えて一日一日を生きる 苦しみの中耐えている
つくば 辻倶歓

空を翔ぶ夢をまた見てしまったらおいでそのまま空を歩いて
東京 金澤和剛

水饅頭も美味だけれど水羊羹がいいね 夏を頂いた気がするよ
伊那 金丸恵美子

敬老を祝ってくれる六歳の孫胡蝶庵で抹茶のシュークリーム
諏訪 伊藤泰夫

閉ざしたシャッター ガタガタと台風と共にソッと秋が忍びよる
福岡 吉田桂子

街がネオンの雲海に滲む 近場でオーロラ 魚沼丘陵
群馬 堀口茂樹

ナルキソス水面に恋をしたように汝 汝の文体を愛せよ
北海道 吉田匡希

孫がくれた黒い小さい粒 昨年学校で咲かせた花の種だ
米子 永井悦子

九十四歳の母の手を取り墓まいり あぜのむこうに曼殊沙華
鳥取 小田みく

マニキュアの乾く三分を惜しみ五指を広げて盆器を下げる
岡谷 土橋妙子

空腹で倒れそうだよ枯れ葉たちがみんなおいしいちょうちょに見える
愛知 早良龍平

オーナーチェンジをしようかと妻が話しかける「?」私には意味不明
大阪 加藤邦昭

八つ縄文織は自由に柄をデザインできる 諏訪プレミアム
葉山 別府直之

重篤の友を見舞いて帰る道 蝉の声聞き自分に戻る
東京 木下海龍

濡れた烏が柿を食べに来た黒髪のたとえが懐かしい
埼玉 木村浩

良い季節 でも私はうつ状態 あらぬ疑いをかけられ心がなえている
東京 上村茗

ナナカマドのオレンジは赤に変わりいよいよ寒くなる
下諏訪 光本恵子

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いのち(未来山脈 2021年11月号より抜粋)

いのち

炎帝の逆光に信号が見えない かすかに揺れるアドバルーンは赤だ
松山 三好春冥

写真館のあった場所も更地になり子ども時代の風景次次に消える
京都 毛利さち子

さらさらと今朝の空気を吸いながら朝顔のうすむらさき
富田林 木村安夜子

点在する岩の魅力に引かれこの町で黙々と生きることを喜ぼう
群馬 剣持政幸

面会は一切禁止コロナ禍で手術をすると思い決断
諏訪 藤森あゆ美

犠牲にしたすべてを笑顔に閉じ込め華やかに舞う新体操選手
諏訪 大野良恵

わが国の祝祭休日 年間十六日制定 日数の満足度は国民要望次第か
大阪 與島利彦

線状降水帯の渦中に住む令和三年の夏あの恐怖を記録に残さねば
米子 大塚典子

なんとかなると思っている東京五輪 しかし神風は吹かない
箕輪 市川光男

極暑に耐えたすすきの穂先を湖からの秋風がそっと撫でていく
諏訪 増田ときえ

気がつかなかった体の悲鳴 圧迫骨折してきしむ背骨
岡谷 佐藤静枝

自然豊かで住み慣れた我が家は盆正月には子達の別荘になる
下諏訪 小島啓一

フレイル予防体操DVD 健康づくりサロンのルーチンコース
米子 角田次代

伏魔殿を追われた君がゼンマスターに拾われて励んでいる
山梨 岩下善啓

真夏の夕方子供たちの声と蝉の声 音で感じる生きる力
牛久 南村かおり

金メダル目指せどバトン繋がらず 四百リレーの日本男子は
小浜 川嶋和雄

かけつけた隣のインターホンは応答 家だけが雷に狙撃される
千曲 中村征子

コロナ禍で二年が空いたステージはツーマン お客の入りも上々
青森 木村美映

全世界の人々に期待され全てを飲み込んだ君は何も知りたくなかったと叫んだ
岡谷 今井菜々美

七年もの間地中のセミたち 去りゆく夏を惜しむか鳴声の競演
坂城 宮原志津子

幸せになりたい 顕在する幸せも存在する筈
つくば 辻倶歓

百日紅が夏の日差しを受けそよ風にゆれて赤く咲いて居る
諏訪 宮坂きみゑ

近所から一時間後位に月下美人が咲きそうと連絡がくる
米子 安田和子

自立して数年経つ愛息子 休日に度々来ては寝溜めしていく
小平 桐野千夏

終わるはずだった夏休みはちゃんと終わらず 続くはずだった夏は突然終わった
流山 佐倉玲奈

掘って刈りとり尚生きる草 今を捨てさろう明日のために
木曽 古田鏡三

主なき空家こわされのびのび育った草たち刈り取られ土だけになった
東京 上村茗

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太陽はいま(未来山脈 2021年10月号より抜粋)

一年が倍速となる古希からの約束の旅コロナが阻む
一関 貝沼正子

大きな顔にも皴が増えた 七夕の雨に遺恨は無い
松山 三好春冥

猛禽類のカイトくるりくるりと宙を舞う夏空は青くて稲田は緑
京都 毛利さち子

斜め下に傾けたまつ毛がコロンと落ちてく彼女の涙
諏訪 藤森あゆ美

季節の空は心を映す 母とのいさかいなんてちっちゃな事
横浜 福長英司

初夏の信州はまた良い残雪の仙丈に鯉幟まさに絵画だ
箕輪 市川光男

要支援二が要介護一になりデイが二か所にリハビリオレンジに行く
飯田 中田多勢子

おや手の消毒する人もしない人も デパ地下出入り口の自由という罪
愛知 川瀬すみ子

青田の中に鷺数羽のんびりと夏祭りの相談か
諏訪 増田ときえ

夏祭り中止節の大きいささくれた男の手が柏手を打つせめてものお参り
福岡 吉田桂子

ベランダに毛虫を咥えて来たシジュウカラ私と目が会い慌てふためく
原 桜井貴美代

朽ち果てる野菜前にして「ごめんね」と語りかける なすすべもなく
原 江崎恵子

すっきりしない五輪開催 世論を反映せず得るものは何か
原 太田則子

青空にくっりきり八ヶ岳 入道雲むくむく孫を待つ
原 泉ののか

人って簡単に死んでしまうもんだねと突然に夫を亡くした友
原 森樹ひかる

ブロック塀に張りつくノウゼンカズラ オリンピックアスリートのよう
下諏訪 藤森静代

窓辺の秘めたセントポーリアとめどなく過去をたぐり寄せている
札幌 西沢賢造

八卦見は言う 夫は生涯三回普請すると 誰も信じなかった
米子 大塚典子

ワクチンを打ったといえど侮るな先が見えない世の中である
諏訪 伊藤泰夫

私のあこがれのSさん人生の終い方も完璧私も近づく様に努めたい
米子 安田和子

伴侶求め泣き尽くす蝉の声束の間の君のロマンを知る人もなく
大阪 高樹邑子

ころんだまた転んだ その刹那脳裏に映し出されるカーペットの角
千曲 中村征子

亡女よ生まれ変わって現れて! この苦しみの生活には耐えられない
つくば 辻倶歓

やや風の強い朝 執筆の部屋に村治佳織のギターは流れ
青森 木村美映

貴女のサポートが私に挑戦する勇気を与えてくれる 前へ進もう
伊那 金丸恵美子

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素足(未来山脈 2021年9月号より抜粋)

薄もも色の夏のワンピースは刺繍入り ベンチに座る私は十歳
下諏訪 中西まさこ

風呂に入り新品のシャツに着替えたり 明日はコロナワクチン接種日
小浜 川嶋和雄

歌友に押し上げてもらって上りきる米子城跡 七十五歳のデビュー
米子 永井悦子

ウイルスめ ワクチン接種に殺到する群衆を見てせせら笑うか
さいたま 清水哲

一枚の葉っぱを切り抜いた動物たちの世界 それが葉っぱ切り絵
福山 杉原真理子

見学者一人限りの運動会 ネット観戦してくれとの味気無さ
大阪 山崎輝男

爽やかなカッコウの泣き声を聞き晴れ晴れ見上げる電線の上
岡谷 金森綾子

白き壁のごと咲き誇った梅花うつぎ 今年は花は無く
岡谷 三澤隆子

五月雨の最中当選のアルストロメリア 光差すように届く
岡谷 柴宮みさ子

山の畑の杏たち遅霜で全滅! 「一目百万本」で有名な産地へ買い出しに
坂城 宮原志津子

郭公よ どうして朝から晩まで泣き続ける 疲れないか
岡谷 横内静子

青梅がトタン屋根にコツンと落ちて梅仕事の始まりを告げる
岡谷 片倉嘉子

風にのり電車が音を運びくるスーパーあずさの旅すら夢の夢
下諏訪 藤森静代

坂道を妻のせ軋む車椅子やっとついたら「本日休診」
横浜 上平正一

仁と義を謳う戦国小説に没頭すれば我は旅人
仙台 狩野和紀

幸せを遠くに求め過ぎていたのかも 案外近くに在るのかもしれない幸せ
つくば 辻倶歓

日本で開催中のオリンピックは私もテレビで視聴するだけに
下諏訪 小島啓一

おそるべしコロナ菌 百年続いたわが店と料亭におそいかかる
鳥取 小田みく

打ち合わせ 商談だってオンライン 用件済めばすぐに退出
神奈川 別府直之

北朝鮮将官の上着全面べったりの勲章 理解に苦しむ彼らの美意識
大田原 鈴木和雄

血糖値の検査で始まり検査で終わる病床日記 笑顔で書きたい
米子 稲田寿子

血に染めてしまいましたね 気を取り戻して 元のようにします
東京 久保田万作

永遠に来ない電車 何者にもなれなかった者の街 私は駅長をしています
岡谷 今井菜々美

魔物が支配する妖怪地の伏魔殿 幼稚で変てこな暴力帝国 魔物は誰からも忘れられたが
山梨 岩下善啓

日々増えていく感染者 ワクチン接種をと言うけれど予約は止まったまま
流山 佐倉玲奈

リヤカー引いて緩やかな坂道を上るのが人生 休むのにも力が要る
群馬 堀口茂樹

夏草茂る丘いくさに潰えた画学生達の夢の欠片
熱海 石川とみ

気温が三十度を超えた日の十一階までの階段も迷うことなく登り始める
大阪 加藤邦昭

神風の子として生まれた俺たちは生まれた時から罪の子だった
北海道 吉田匡希

グラス落ち砕ける言葉拾い上げパズル合わせに日暮れも知らず
東京 木下海龍

耐えられぬ暑さの予感させる あと一週間で夏休み
横浜 大野みのり

家付き娘の私 養子に入ってくれた夫も亡くなりいま独り
茅野 平澤元子

三十年あっというまの三十年 振りかえる今 思う後悔
東京 上村茗

この暑さとオリンピックが終わるまでは静かに自粛生活の僕です
東京 天野敏光

親鳥は厳しく時に子鳶を突き放し 電柱のてっぺん ぴーひょうろろ
下諏訪 光本恵子

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いのち(未来山脈 2021年8月号より抜粋)

月初めの手帳に記す締切日四月のリズムまた動き出す
一関 貝沼正子

何もかも黒装束に身を包み夜の闇を駆け抜ける謎の集団
群馬 剣持政幸

藍色の八ヶ岳を望む高原 特大の木苺のソフトクリームは今日の幸せ
岡谷 三枝弓子

母の日にサンパチェンスをプレゼント苗木育てる妻の喜び
諏訪 伊藤泰夫

高砂百合は長雨の日々を咲き次いで香り少なき花の矜持
下諏訪 笠原真由美

夢まくら大阪文学校時代 田辺聖子講師の学徒動員体験談 悲涙
大阪 與島俊彦

いつも寝ころがっていた爺が春! ピョンと起き田の準備始めた
福知山 東山えい子

加茂川散歩 来たに行こうか南へ行こうか 今日は南に行く気分
京都 岸本和子

今年も山友からバラが咲いたので観に来てと案内があった
米子 安田和子

歌友たちの短歌から爽やかで意志的な生活ぶり 何をしているのか私
下諏訪 須賀まさ子

生きている意味が分からない 分からずとも良い 生きている
つくば 辻倶歓

春に晒された清々しい朝の風封じられた扉を開く
札幌 西沢賢造

宅老所かけはし レクリエーションは諺かるたを字でなく絵で拾う
飯田 中田多勢子

五月までの連休までに茄子トマト胡瓜の植え付けは一応終わる
岡谷 花岡カヲル

一段上の君に追いつかないエスカレーター
埼玉 木村浩

母の日のお花が全て売り切れ いただけたのは猫の置物
牛久 南村かおり

笠松からの二十年ぶりの便りには溢れんばかりの情愛の波
仙台 狩野和紀

自らの重みに敢えなくぽきり拳大の真っ赤な八重のチューリップ
岡谷 柴宮みさ子

手が入れられず減らしている植物なれどコロナ禍では世話も楽しむ
岡谷 横内静子

耕す畑によみがえる土の温もり仰ぐ空に陽の暖かさ
岡谷 三澤隆子

真白な紫陽花の名はコットンキャンディー 優しく包み込まれる
岡谷 片倉嘉子

桟橋の釣り人並び楽しげな声そこが居場所ですか男の人の
岡谷 金森綾子

腰癒えて新しい靴を買いに行き未来へ一歩踏み出していく
福山 杉原真理子

雨上がり緩やかなカーブを描き群生の葉蘭つややか
米子 笹鹿啓子

バラよ並んで誰まつの逢いに来た二度目のバラ園ここは安曇野
木曽 古田鏡三

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