エッセイ
光本惠子のエッセイ
短歌の作り方
- 2020年12月31日
- エッセイ
対象を絞ること、対象をよく見ること
対象をあるがままに見ること。あの人が言うからとか、この花は誰もがこう思うから、ではなく、私はどう感じるか。私の眼で見て感じたことが大事である。内なる感情に対しても同様である。本を読み、辞書を見て、ラジオを聴く。同じ庭の花もじっくり見ているといつもと異なって見えてくる。
言葉に出して自分の感情や具体的な花の思いなどを表現するとき、比ゆを使って自分の気持ちを表現することもあってよい。
ともかく感じたことを紙面や画面に吐き出してみよう。字数など考えないで、ともかく吐き出す。活字に表現してみる。そのあとじっくり考える。長すぎたところは三十字前後に。気持ちがダブる言葉は簡潔に。それが名詞も、修飾することば形容詞や副詞もダブっていないか、その修飾語はもっとふさわしい単語があるのではないか、音数を考えながら、別な単語を当ててみる。韻律はリズムはよいか。
数日して、その歌をさらに読み直してみる。そして完成する一首。 (さらに…)
科学と短歌――シュールなうた――
- 2020年9月4日
- エッセイ
関西の永田和宏や、関東の坂井修一は科学者であり歌人である。
文学といえども、科学的とまで言わずとも、合理的か、理屈に合っているかは歌つくりには大切なことである。
短歌の中で、飛躍として、ことばと言葉の間に時間的空間とか、変化を求める、読み手の空想を駆り立てるなどの短歌手法を使うことがある。シュールな歌ともいえよう。そこには様々の想像を掻き立てる深さと面白さがある。宮崎信義と永田和宏の歌を見ていく。 (さらに…)
短歌の発酵を待つ
- 2020年8月5日
- エッセイ
9月号のために十首歌を作らなければならない。ああどうしよう。
まず8月号の短歌雑誌を受け取った時、パラパラと雑誌をめくってみる。ああこんな歌もあるなあ。これなら私にだって作れそう。その歌を書き留めてみる。真似は「まなぶ」の始まり。
散歩に出かける。石ころに当たって転びそうになる。転んだ顔の先にコンクリ―トの隙間から名も知らぬ小さな黄色の花が咲いている。こんなところでも生きよう、咲こうと首を伸ばしている花の芽に驚く。転んでもただでは起きない。あの家の前にはバラの花の根元で犬が吠えていた。帰宅するとそのことを紙に書きとめる。これが歌作りの一歩である。 (さらに…)
宮崎信義の歌からまなぶ
- 2020年7月2日
- エッセイ
・本の始末はしておかないと死ぬにも死ねぬと思いながら渉らぬ
(宮崎信義歌集「山や野や川」より)
宮崎信義歌集『山や野や川』は平成17年10月にながらみ書房から出版した。宮崎93歳の時である。この歌集にある短歌である。これは平成14年(2002)の90歳の作。この年宮崎は、光本に「新短歌」を譲り「未来山脈」と合併した。それは生涯最後の時を、整理したいと思ってのことであったろう。何時その時が来てもおかしくない年齢になっていた。準備としては、このたくさんの書籍をどうするか。毎日毎日そのことが気になりながら、なかなか整理できないでいた。なにぶん書籍というのは重い。それより先にやらねばならぬことがあった。今まで作った短歌を本にまとめることである。実際、光本に歌誌の発刊を委ねてからの仕事ぶりはすさまじかった。 (さらに…)
スペイン風邪と松井須磨子
- 2020年5月2日
- エッセイ
『カチューシャの唄』 (抱月作詞・中山晋平作曲)
- カチューシャかわいや わかれのつらさせめて淡雪 とけぬ間と神に願いを(ララ)かけましょうか
- カチューシャかわいや わかれのつらさ今宵ひと夜に 降る雪のあすは野山の(ララ)路かくせ
- カチューシャかわいや わかれのつらさせめて又逢う それまでは同じ姿で(ララ)いてたもれ
- カチューシャかわいや わかれのつらさつらいわかれの 涙のひまに風は野を吹く(ララ)日はくれる
- カチューシャかわいや わかれのつらさひろい野原を とぼとぼと独り出て行く(ララ)あすの旅
「角川短歌」2020年3月号にて「のぼるんだ生きるんだ」12首が掲載される。
角川短歌」2020年3月号にて「のぼるんだ生きるんだ」12首が掲載される。
光本恵子(未来山脈)
・ゴォーの音とともに川の決壊(けっかい)りんごも梨もみんな泥田に
・ずんずん水かさ上がり白壁埋まる二階に逃げろ
・濁流に呑みこまれる紅いりんご押しつぶして河は龍となる
・形あるものみるみる濁流にのみこまれる家も畑も
・鬼の面ゴォーとともに人も街も呑みこむ千曲川
・風案じ慌てて?ぎとるとるりんごまで濁流はさらっていった
・りんご園も道路も川も呑みこんで傾いた屋根にカラス一羽
・人の差に存在理由みつけたい蜘蛛は美しい罠を張る
・大蜘蛛は頭上に綱張り待ちかまえる捕(つか)まるのはどっち
・ポリコレってどこまで公正(こうせい)中立(ちゅうりつ)がこの世にあろうか
・鈍行に揺られバスのりつぎ屋島の里へひねもす与一と
・のぼるんだ生きるんだ金毘羅の石段ついに七八五段