エッセイ

光本惠子のエッセイ

杉原千畝の「命のビザ」

杉原千畝の「命のビザ」
光本恵子

「ありがとう 言いたかった」戦時中にナチスドイツの迫害から逃れ、神戸に一時滞在したユダヤ人のマーセル・ウエルランド氏(九十五歳)が「感謝の言葉を言いたかった」と神戸を訪れた。 -との新聞記事をよむ。 (さらに…)

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光本恵子の選ぶ歌 六月号より

光本恵子の選ぶ歌

六月号より

 

・深い霧の中からウグイスの声との響きゆっくりゆっくり参道を登る
市川光男

・さくらの報いうら道自転車で少女は髪をなびかせ走る
川嶋和雄

・中世は朽ち果ててゆき石積みのアルベルゲから見える星空
木村美映

・うぐい釣り今日はどこまで行ったやら息子が狙う炭川の澱
石井としえ (さらに…)

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光本恵子が選ぶ歌

・水たまりの氷の空をビリッパリン八歳のブーツそろそろとゆく
貝沼正子

・泣いたり笑ったり沈んだり浮かんだり生きるって楽しいよな
市川光男

・修学旅行のようなウナギの寝床 薄暗い中に八つの頭が並ぶ
角田次代

・親が差し入れてくれた(いかめし〉が食える幸せ 親の事はもう赦そう
辻 倶歓

・選挙が来れば血が騒ぐざわめくようなこの鼓動は止まらない
剣持政幸

・わが町が下駄スケート発祥地 二本刃・三本刃は今博物館に
藤森静代

・笹の葉を鳴らして日暮れの風が吹きあなたのくちびるも震えてる
上平正一

・ちゃんと生きているか 自分に問うてみる 人をうらんだりいじけてみたり 冬
木村安夜子

・悔いは無い精一杯生き働いた 山と短歌を親友として
大内美智子

・NATOの温度差がウクライナ支援の毛布を奪っていく
増田ときえ

・再三の病を得て幼子のような妻 なんとしても守らねばならぬ
木下忠彦

・小寒の雨は根雪をとかす庭先に身をとじたふきのとう五つ
三枝弓子

・今宵は娘とビザパーティー「マルゲリータ」と「ゴンゴンゾー」の食べ比べ
花岡カヲル

・若い頃の友もいいけど 老いての友もいいねロックを聴いて
川瀬すみ子

・通りすがりの人に庭のフキノトウをあげたらヨグルトになって返ってきた
岩下善啓

・世界中を歩いた夫と私 紺碧のジブラルタル海岸でカンツォーネを唄う
宮坂きみゑ

・木立の中を汽車がすこし見えてくる 旅立つ姉が窓から手を
古田鏡三

・父と母と夫がいたこの家に私は今ひとり生かされて
佐藤靜枝

・大洗 赤い橋が那珂川にかかる風景楽しむ海の入り口
南村かおり

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ことばのちから

桃太郎なような男・大谷翔平

「僕らはきょう超えるために、トップになるために来たので、きょう一日だけは彼らへの憧れを捨てて勝つことだけを考えましょう」
野球の世界大会(ワールドベースボールクラシック) 決勝戦の前で、大谷翔平はこのように、仲間の前で、言ってのけた。 (さらに…)

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光本恵子の選ぶ歌   三月号より

光本恵子の選ぶ歌   三月号より

・赤いトタン屋根のましろな霜が朝陽に輝き出す瞬間がすき
片倉嘉子

・中央道から見る富士山の形状 きっと 神様が創ったんだ
横内静子

・読み返す日々の暮らしは昨日のごと脳裏に 五年連続の日記帳
三澤隆子

・岡谷マリオで女高生に手渡し ピカマチスの紅湖の紺に映えいる
清水哲

・年明けから電気料があがる 寒さには勝てないオール電化の我家
花岡カヲル

・難しいかなと思いつつ見せた映画ストーリーをしっかり理解する娘と息子
佐倉玲奈

・伸び過ぎた枝の先の黄のバラの花私はここよここにいるのよ
毛利さち子

・気の違い時間でできた石に新しい生命をすばらしき歌碑
木村 浩

・引っ越したい居坐りたい ここは四年暮らした第二のふるさと
大野みのり

・大好きな曲の話で盛り上がる あっ流星がきみをよぎった
須藤ゆかり

・五十四歳の今も子どもの頃の記憶は鮮明 虐待の記憶が出し抜けに蘇える
岩下善啓

・大切に守られ外に出られない私鶏舎の中を走り回る鶏と同じ境遇
高木邑子

・ぬいぐるみに支配されちゃえこの地球そしたらぼくの中身もわたわた
今井菜々美

・何でもいい ひとつ何かを成し遂げたい ひとつ何かに挑戦したい
別府直之

・好きなんだ 冷たい空に堂々と明るさを増す一月の陽が
川瀬すみ子

・夢と希望と人生を語る息子は逞しい 世代交代の時期がやって来た
金丸恵美子

・風に舞い空から降ってくる雪 ああ僕が流されてゆく
中村宣之

・あたために来た体を冷ますあたためる矛盾を愛して現世を生きる
吉田国

・天空ののドームは赤み増して 日没が僅かに遅くなる大寒
金井宏

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光本恵子の選ぶ歌

「未来山脈」二月号から会員の秀歌を取り上げる。

・敬老の日 幼い絵手紙届く やさしさ教える教師にありがとう
山崎輝男

・早くはやく何かに追われる日々忘れ 自然の懐にいだかれる幸せ
宮原志津子

・定規を当てまっすぐ引かれたあの国境 今最も手にしたいのは世界地図
中村征子

・池の水が私の顔を映している 疲れた顔だが心は疲れていない
加藤邦昭

・寒風の戦禍のふるさとを思い涙する日本に住むウクライナの人々
征矢雅子

・書きことば話しことばを写しとる万葉仮名に「芳流(はる)」と書かれて
石井としえ

・「世の中はあわれ」と詩人がうたう 若者が死ぬおさなごが死ぬ
中西まさこ

・新麦の青さを愛でてしたり顔 祖父に似てきたわたしは米寿
木下海龍

・岩肌を流れ落ちる水すだれ白糸の滝は北軽にあり
桜井貴美代

・庭の木々もすべて葉を落とした細い枝先まで陽の光が浸透する
森樹ひかる

・我家のキャベツ 生 炒め 煮る 何でもござい芯まで甘い
太田則子

・あっぺとっぺ 思わず復唱あっぺとっぺ友と一緒にあっぺとっぺ
泉ののか

ヨガで自分を労わっていたつもりがまさかぎっくり腰に遭うなんて
大野良恵

・自分にもいづれ来る免許返納の日 見渡しても高齢の村
東山えい子

・どんなに遠くても定形郵便通八十四円で届く幸せ
杉原真理子

・床屋さんで色々人の裏話をする 自分の事は棚に上げて
鈴木和雄

・赤い橋の上からとばした石ころ孤を描いて吸い込まれて水面を揺らす
近山紘

・米子城跡へ登る後から男生徒に「お婆ちゃん頑張って」 え! 私のこと?
安田和子

・私にお手引きはない 突然繋いでK氏 恥ずかしいやらへたる
河西已惠子

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梓志乃のうた『阿修羅幻想』から

志乃のうた「阿修羅幻想」から

志乃のうた

・祭りばやしにさそわれて燃える夕陽 遠い日の父の肩ぐるまのなつかしさ

・愛憎と云えるものすでに遠く 愛の彼方 雪はしんしんとただ降りつもる

・少年は老いた私の内で育たなかった愛は春の嵐に拭き散らす

・たんぽぽの綿毛風に乗る 永遠の命への旅 空の青さどこまでの

・夏がかくれんぼの愛をさらう 秋風の中 いつまでもひとりぼっち

・茶房の夜の深さに珈琲をひく ひたすらに香り立つ珈琲を

・醒めてゆく眠りの中 漠として捕え様もなく冬のむこうに私が居る

(歌集「阿修羅幻想」より)

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「桑原政昭作品集!」 を読み味わう

「桑原政昭作品集!」 を読み味わう

光本恵子

ポエトピア社刊 一九七五年発行

・ほろ酔いで帰ったアパートに 大学にいかなかった友からの手紙がまっていた

・真白なシナリオを小脇にかかえて灯の敷きつめられた街をでる

・フィットワークささえる祝日 積みあげた夢を人形の街にはなそう

・ピアノの愛撫をしたら待ちくたびれた週末のひとりぼっち

・耐えるよりないのか 凍り尽きつきそうな私 夜明けたぐる刻がつづく

・のしかかってくる断崖をも砕く果実をむさぼる少年の背中

・乾ききったトランペット港になりひびき わたしは青春のまんなかに降りる

・ジーンズを穿きかえどうにもならない暑さと連れだって街をゆく

・もえろ 燃えろ 故郷の夕焼け ガイド・ブックもたない僕を飾れ (さらに…)

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宮崎信義歌集『地に長く』を読み味わう

「地に長く」は短歌新聞社刊平成八年の発行。宮崎の第九歌集である。
年齢も七十代から八十代にかけての作品。
わたしもその年になった。それだけに気になる歌集である。

・あの娘は昭和四十五年生まれ私は明治四十五年生まれ私は明治四十五年生

明治四十五年で終わり、昭和は六十四年まであった。二つの年の四十五年は気になるところである宮崎の生まれた明治四十五年は石川啄木の亡くなった年でもある。昭和は長く続いた。

・この桜あと何年見られるかわたしが逝くのはいつ 頃だろう

この歌は七十七歳の頃の歌である。桜の花に感慨深く、「あと何年見れるだろう」「私が逝くのは」などと考える年であったのか。実際の宮崎は九十六年と十ヵ月生きて逝った。 (さらに…)

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原 三千代のうた

三十年も前のこと。私は青森で賞を受けたことがあった。その折、原三千代さんにお会いした。

七十代の美千代さんは青森市の学校に勤務しておられた。着物姿の美千代さんと、夫で歌人の川崎奥羽男氏のお二人が食事の席にきてくださった。そこで出されたお吸い物のなかで「じゅんさい」が泳いでいた。「まあ、原三千代さんはじゅんさいのような方ね」と私は叫んでいた。着物の下の白いたび、その足もとのなんと楚々としていることか、小さな顔を支える首筋も白い足首も長く伸びて、すっとしたままの原三千代さんは今にも消えてしまうかのように痩せて色白で少女のように夫に齊藤喜和子さんに何かわがままを言っていた。

『一九三七年版新短歌』の“くらげの歌”二十一首のなかから (さらに…)

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