エッセイ

光本惠子のエッセイ

好きなキノコ

好きなキノコ

次の日は黒部ダムに行く予定であった。「明日は雨だから傘も入れて」と夫は告げ、私は折りたたみ傘も入れて二つリュックを用意した。
その日は突然やってきた。夫の垣内敏廣が亡くなる。 (さらに…)

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短歌であるために

短歌性を考える。

昭和十年前後、口語の自由な短歌は多くの人が模索して作った。主な見解をここに綴る。

昭和六十年に諏訪で講演した時の宮崎信義の「口語自由短歌の手引き」を参考に記してみよう。 (さらに…)

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科学と短歌――シュールなうた――

関西の永田和宏や、関東の坂井修一は科学者であり歌人である。

文学といえども、科学的とまで言わずとも、合理的か、理屈に合っているかは歌つくりには大切なことである。

短歌の中で、飛躍として、ことばと言葉の間に時間的空間とか、変化を求める、読み手の空想を駆り立てるなどの短歌手法を使うことがある。シュールな歌ともいえよう。そこには様々の想像を掻き立てる深さと面白さがある。宮崎信義と永田和宏の歌を見ていく。 (さらに…)

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短歌の発酵を待つ

9月号のために十首歌を作らなければならない。ああどうしよう。
まず8月号の短歌雑誌を受け取った時、パラパラと雑誌をめくってみる。ああこんな歌もあるなあ。これなら私にだって作れそう。その歌を書き留めてみる。真似は「まなぶ」の始まり。
散歩に出かける。石ころに当たって転びそうになる。転んだ顔の先にコンクリ―トの隙間から名も知らぬ小さな黄色の花が咲いている。こんなところでも生きよう、咲こうと首を伸ばしている花の芽に驚く。転んでもただでは起きない。あの家の前にはバラの花の根元で犬が吠えていた。帰宅するとそのことを紙に書きとめる。これが歌作りの一歩である。 (さらに…)

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宮崎信義の歌からまなぶ

・本の始末はしておかないと死ぬにも死ねぬと思いながら渉らぬ
(宮崎信義歌集「山や野や川」より)
宮崎信義歌集『山や野や川』は平成17年10月にながらみ書房から出版した。宮崎93歳の時である。この歌集にある短歌である。これは平成14年(2002)の90歳の作。この年宮崎は、光本に「新短歌」を譲り「未来山脈」と合併した。それは生涯最後の時を、整理したいと思ってのことであったろう。何時その時が来てもおかしくない年齢になっていた。準備としては、このたくさんの書籍をどうするか。毎日毎日そのことが気になりながら、なかなか整理できないでいた。なにぶん書籍というのは重い。それより先にやらねばならぬことがあった。今まで作った短歌を本にまとめることである。実際、光本に歌誌の発刊を委ねてからの仕事ぶりはすさまじかった。 (さらに…)

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短歌の音数

・ゆすぶってやれゆすぶってやれ木だって人間だって青い風が好きだ
宮崎信義のうた(第四歌集『急行列車』から)

ゆすぶってやれ/ゆすぶってやれ/木だって/人間だって/青い風が/好きだ
6音+6音+4音+7音+6音+3音(32音)

この短歌の音律を考えるとき、定型律(五七五七七)とはかなり異なるのだが、立派に一つのまとまり、すなわちリズムをもっていることがわかる。舌の上に乗せて短歌を口ずさんでみよう。 (さらに…)

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スペイン風邪と松井須磨子 

『カチューシャの唄』  (抱月作詞・中山晋平作曲)

  • カチューシャかわいや わかれのつらさせめて淡雪 とけぬ間と神に願いを(ララ)かけましょうか
  • カチューシャかわいや わかれのつらさ今宵ひと夜に 降る雪のあすは野山の(ララ)路かくせ
  • カチューシャかわいや わかれのつらさせめて又逢う それまでは同じ姿で(ララ)いてたもれ
  • カチューシャかわいや わかれのつらさつらいわかれの 涙のひまに風は野を吹く(ララ)日はくれる
  • カチューシャかわいや わかれのつらさひろい野原を とぼとぼと独り出て行く(ララ)あすの旅

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さくら 

いよいよ今年も桜のシーズンの到来。

岡谷市を見下ろす鉢伏山の一滴が川となって諏訪湖へそそぎこむ流れ。それが横河川だ。この上流から流れ落ちる一滴一滴が大きな流れを生み、市民の大切な水源ともなっている。それだけに人々はこの横河川を大切に守ってきた。

川の両岸には400本も続く桜並木が4キロにもわたって咲き誇り、その河口である諏訪湖に流れ込む。その川と湖との接点に、栄養の豊富と知って白鳥たちがたくさん集まる。 (さらに…)

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「角川短歌」2020年3月号にて「のぼるんだ生きるんだ」12首が掲載される。

角川短歌」2020年3月号にて「のぼるんだ生きるんだ」12首が掲載される。

光本恵子(未来山脈)

・ゴォーの音とともに川の決壊(けっかい)りんごも梨もみんな泥田に

・ずんずん水かさ上がり白壁埋まる二階に逃げろ

・濁流に呑みこまれる紅いりんご押しつぶして河は龍となる

・形あるものみるみる濁流にのみこまれる家も畑も

・鬼の面ゴォーとともに人も街も呑みこむ千曲川

・風案じ慌てて?ぎとるとるりんごまで濁流はさらっていった

・りんご園も道路も川も呑みこんで傾いた屋根にカラス一羽

・人の差に存在理由みつけたい蜘蛛は美しい罠を張る

・大蜘蛛は頭上に綱張り待ちかまえる捕(つか)まるのはどっち

・ポリコレってどこまで公正(こうせい)中立(ちゅうりつ)がこの世にあろうか

・鈍行に揺られバスのりつぎ屋島の里へひねもす与一と

・のぼるんだ生きるんだ金毘羅の石段ついに七八五段

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光本恵子の歌 「馬の糞」20首掲載 「短歌研究」 2020年2月号掲載

「短歌研究」 2020年2月号掲載

光本恵子の歌
「馬の糞」20首掲載

・山越えて谷を下り未来山脈 みずうみから八ヶ岳のぞむ
・博労の小椋のおっさん酒を一杯飲んでいる問に馬の糞
・博労はたいらげた 馬の糞している間の豆腐一丁
・美容院がえりの頭が笑っていた祖母に私もわらう
・魚売るおばあちゃんの大八車押すのは小二のわたし
・しろいもの光に透けて筋をなす雨から雪に湖かくれる
・宵の月過ぎ通る人影にもびくともしない鷺のながぁい首
・刻々と姿を変える夕べのみずうみ月と星はオーケストラ
・ながれゆくバッハの曲たゆたう湖(うみ)とりまき濃紺にひかる星
・台風来て水は出なく水であふれるそれでも抱き留めてくれる湖
・いきなりあらわれる宮崎信義「カレーを食べようや」白い歯見せて
・八ヶ岳(やつ)の一滴は川つくり諏訪湖に降り龍になって太平洋まで
・苦しみの闘病の日みなに授けられ六十本の輸血を受けて今が在る
・短歌(うた)詠むも生きていればこそ宮崎信義の踏ん張りを力にして
・湖畔にてカラスと仔猫のあらがう壮絶なる闘いのはじまり
・電線のカラス下降し仔猫をいじるついにわたしの出番なり
・雪かぶる八ヶ岳(やつ)の水と石 縄文から令和まで人を生かして
・八ヶ岳(やつ)の光浴び一人の少女馬曳いてゆくかっぽかっぽ
・ゆるゆると長い坂のぼりゆく目前に雪をかぶった八ヶ岳
・朝日かがやく八ヶ岳を背に娘の馬はゆるゆる草食む

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