エッセイ
光本惠子のエッセイ
光本恵子の選ぶ歌 十一月号より
- 2023年11月29日
- エッセイ
光本恵子の選ぶ歌
十一月号より
・しまって置いた二人のパスポートもういらない思い出は心の中
宮坂きみゑ
・作業用手袋が道路の真ん中にパーの格好のまま潰れている
酒本国武
・みみずさん何で土の中にいないの 陽を受けたらミイラでしょ
太田則子
・リンドウ キリンソウ秋の装いの湿原涼やかな風に心解れて
桜井貴美代
・母に詫びる母を想う 母のすべてがいとおしい
泉ののか
・このイスに座ってケラケラ笑いころげた彼女はもういない
森樹ひかる
・令和五年七月十八日朝八時夫はついに力尽きて逝く八十八歳の生涯
中田多勢子
・プチトマトが大好きな一歳と二歳 塩昆布キュウリが好物五六歳
宮坂夏枝
・くい違う意見を今日は争わず向き向きに咲くジャガイモの花
貝沼正子
・好感度が物言う無難なドラマ 気の合うミステリーには敵わない
大野良恵
・想い出が舟いっぱいに積みこまれかなしみの河をながされてゆく
上平正一
・ハート好きな人は幸せになれるよ 私のコメントに うんと言う子
川瀬すみ子
・七年前まで民生委員で見守った 今見守られて手すり申請中
大内美智子
・雨の中当てもなく歩く無数に開いた壁の穴から光の筋が走る
近山林
・デパートに行きたいデパートの十一階でプリン・ア・ラ・モードが食べたい
笠原真由美
・入道雲に向かって走る一本道 青空に立秋の光がにじむ
中村宣之
・自分で決められないいのち 青々畑の雑草のまん中にいる
東山えい子
・やはり常に植物を見守って植物の気持がわかるようになりたいな
安田和子
・今年の酷暑を新鮮野菜で無事乗り切った 家内の丹精に感謝
金井宏素
光本恵子の選ぶ歌
- 2023年10月31日
- エッセイ
十月号より
・咲き誇る薔薇を背に一輪の老いた薔薇として片隅に写る
河西巳惠子
・核廃絶は理想と笑う人々 笑われても私は信じたい人間の叡智と勇気
加藤邦昭
・どの樹もどの樹も寡黙つらぬいてモスグリーンの寡黙
木村安夜子
・庚申塔の桜と呼ぶエドヒガンザクラ語る母の故郷愛あふれてる
剣持政幸
・ピーピー冷蔵庫がわめく 人参きゅうり猛暑に馴れよ平気なジャガイモ
中村征子
・建前行きから本音行きに乗り換えよう 朝焼けがとても美しいから
杉原真理子
・セミが一瞬を生きる歓喜の声上げる 朝陽を受けて身体震わす
山崎輝男
・垣根をも越えて咲いている夾竹桃 影はヒラヒラ花びら動く
川嶋和雄
・参禅道場を持つ西日本唯一の大本山佛通寺 川沿いの佳き山水の地
岩下善啓
・人類の目標は便利な生活をすることだけか 深く考えたい
木下忠彦
・担当した本が退社後もかわらずに生徒に使われる不思議な感覚
岸本和子
・すがすが吹く風のような水流紋の練り切り 初夏の菓子処
毛利さち子
・会いたいな何でもかんでも話せる人に子どもや自分の未来について
石井としえ
・緑の葉っぱのモロヘイヤ口当たりのやさしいネバネバは胃袋も嬉しい
稲田寿子
・傷口は肌になるけどかなしみは無にしかならない花いちもんめ
吉田匡希
・出来ないよりも出来ること数えればまだまだいけるか私のこの先
大塚典子
・すっかりときりに包まれた静かな日曜日に救急車のサイレンひびく
小田みく
・散歩道でみつけたイタドリやスイコむかしみなこれ食べたっけ
市川光男
・秋の虫の声聞きながらiPad そのみずうみに花火が咲いた
須藤ゆかり
光本恵子の選ぶ歌
- 2023年9月1日
- エッセイ
光本恵子の選ぶ歌 光本恵子
二月号より
・迷惑行為だったんだポスターで知った背中のリック
木村浩
・サッカーW杯次回の8強を期待して ベッドに
増田ときえ
・「私たちの国籍は天にあり」刻まれた墓碑の周りはりはすでに満天星で真赤
南村かおり
・八十路坂 幼少期 故郷の砂浜で相撲や海水浴 今も記憶・鮮明だ
與島利彦
・末子ちゃんから電話あり 赤ペンで花丸つけて日記に書き記す
角田次代
・啄木短歌に魅せられて始めた短歌五十年私は今かの城跡の石垣の上
市川光男
・人生とは鉛筆一本によく似たり削られて小さくなり消えてゆく
鈴木那智
・コロナ 戦争 異常気象 不景気 地球が悲鳴を上げている
大内美智子
・秋はいい新米旨いよ果物もね でも夢でいい母の芋飯が
川嶋和雄
・どうだんつつじの紅葉よ 私の汚れた気持ちを洗い流しておくれ
辻倶歓
・夕映えが消え去った後にしまい忘れた記憶のかけらを拾う
西沢賢造
八月号より
・白い花が咲くドクダミは外傷の万能薬 傷に青汁を垂らした
金井宏素
・原爆慰霊碑に七国の首脳が揃って献花意義ぶかき
鈴木那智
・微妙だな気分が揺れる源の水槽さ水から生かされている
今井和裕
・夫のすきだった卵料理あれこれつくる夢を見る
宮坂きみゑ
・連休が終ると夏野菜の植付で畑が忙しくなり麦ワラ帽子の出番です
稲田寿子
・いったい誰が何が怪物なのか 子の 親の 教師の立場
佐倉玲奈
・父の形見の杖は茶色母のはゴールド私のは碧三つ並んだ玄関
鈴木和雄
・風に身じろぐ草の花に歌の種をもらう 日和雨を恵みに
三好春冥
杉原千畝の「命のビザ」
- 2023年7月31日
- エッセイ
杉原千畝の「命のビザ」
光本恵子
「ありがとう 言いたかった」戦時中にナチスドイツの迫害から逃れ、神戸に一時滞在したユダヤ人のマーセル・ウエルランド氏(九十五歳)が「感謝の言葉を言いたかった」と神戸を訪れた。 -との新聞記事をよむ。 (さらに…)
光本恵子の選ぶ歌 六月号より
- 2023年6月30日
- エッセイ
光本恵子の選ぶ歌
六月号より
・深い霧の中からウグイスの声との響きゆっくりゆっくり参道を登る
市川光男
・さくらの報いうら道自転車で少女は髪をなびかせ走る
川嶋和雄
・中世は朽ち果ててゆき石積みのアルベルゲから見える星空
木村美映
・うぐい釣り今日はどこまで行ったやら息子が狙う炭川の澱
石井としえ (さらに…)
光本恵子が選ぶ歌
- 2023年5月30日
- エッセイ
・水たまりの氷の空をビリッパリン八歳のブーツそろそろとゆく
貝沼正子
・泣いたり笑ったり沈んだり浮かんだり生きるって楽しいよな
市川光男
・修学旅行のようなウナギの寝床 薄暗い中に八つの頭が並ぶ
角田次代
・親が差し入れてくれた(いかめし〉が食える幸せ 親の事はもう赦そう
辻 倶歓
・選挙が来れば血が騒ぐざわめくようなこの鼓動は止まらない
剣持政幸
・わが町が下駄スケート発祥地 二本刃・三本刃は今博物館に
藤森静代
・笹の葉を鳴らして日暮れの風が吹きあなたのくちびるも震えてる
上平正一
・ちゃんと生きているか 自分に問うてみる 人をうらんだりいじけてみたり 冬
木村安夜子
・悔いは無い精一杯生き働いた 山と短歌を親友として
大内美智子
・NATOの温度差がウクライナ支援の毛布を奪っていく
増田ときえ
・再三の病を得て幼子のような妻 なんとしても守らねばならぬ
木下忠彦
・小寒の雨は根雪をとかす庭先に身をとじたふきのとう五つ
三枝弓子
・今宵は娘とビザパーティー「マルゲリータ」と「ゴンゴンゾー」の食べ比べ
花岡カヲル
・若い頃の友もいいけど 老いての友もいいねロックを聴いて
川瀬すみ子
・通りすがりの人に庭のフキノトウをあげたらヨグルトになって返ってきた
岩下善啓
・世界中を歩いた夫と私 紺碧のジブラルタル海岸でカンツォーネを唄う
宮坂きみゑ
・木立の中を汽車がすこし見えてくる 旅立つ姉が窓から手を
古田鏡三
・父と母と夫がいたこの家に私は今ひとり生かされて
佐藤靜枝
・大洗 赤い橋が那珂川にかかる風景楽しむ海の入り口
南村かおり
光本恵子の選ぶ歌 三月号より
- 2023年4月1日
- エッセイ
光本恵子の選ぶ歌 三月号より
・赤いトタン屋根のましろな霜が朝陽に輝き出す瞬間がすき
片倉嘉子
・中央道から見る富士山の形状 きっと 神様が創ったんだ
横内静子
・読み返す日々の暮らしは昨日のごと脳裏に 五年連続の日記帳
三澤隆子
・岡谷マリオで女高生に手渡し ピカマチスの紅湖の紺に映えいる
清水哲
・年明けから電気料があがる 寒さには勝てないオール電化の我家
花岡カヲル
・難しいかなと思いつつ見せた映画ストーリーをしっかり理解する娘と息子
佐倉玲奈
・伸び過ぎた枝の先の黄のバラの花私はここよここにいるのよ
毛利さち子
・気の違い時間でできた石に新しい生命をすばらしき歌碑
木村 浩
・引っ越したい居坐りたい ここは四年暮らした第二のふるさと
大野みのり
・大好きな曲の話で盛り上がる あっ流星がきみをよぎった
須藤ゆかり
・五十四歳の今も子どもの頃の記憶は鮮明 虐待の記憶が出し抜けに蘇える
岩下善啓
・大切に守られ外に出られない私鶏舎の中を走り回る鶏と同じ境遇
高木邑子
・ぬいぐるみに支配されちゃえこの地球そしたらぼくの中身もわたわた
今井菜々美
・何でもいい ひとつ何かを成し遂げたい ひとつ何かに挑戦したい
別府直之
・好きなんだ 冷たい空に堂々と明るさを増す一月の陽が
川瀬すみ子
・夢と希望と人生を語る息子は逞しい 世代交代の時期がやって来た
金丸恵美子
・風に舞い空から降ってくる雪 ああ僕が流されてゆく
中村宣之
・あたために来た体を冷ますあたためる矛盾を愛して現世を生きる
吉田国
・天空ののドームは赤み増して 日没が僅かに遅くなる大寒
金井宏
光本恵子の選ぶ歌
- 2023年3月1日
- エッセイ
「未来山脈」二月号から会員の秀歌を取り上げる。
・敬老の日 幼い絵手紙届く やさしさ教える教師にありがとう
山崎輝男
・早くはやく何かに追われる日々忘れ 自然の懐にいだかれる幸せ
宮原志津子
・定規を当てまっすぐ引かれたあの国境 今最も手にしたいのは世界地図
中村征子
・池の水が私の顔を映している 疲れた顔だが心は疲れていない
加藤邦昭
・寒風の戦禍のふるさとを思い涙する日本に住むウクライナの人々
征矢雅子
・書きことば話しことばを写しとる万葉仮名に「芳流(はる)」と書かれて
石井としえ
・「世の中はあわれ」と詩人がうたう 若者が死ぬおさなごが死ぬ
中西まさこ
・新麦の青さを愛でてしたり顔 祖父に似てきたわたしは米寿
木下海龍
・岩肌を流れ落ちる水すだれ白糸の滝は北軽にあり
桜井貴美代
・庭の木々もすべて葉を落とした細い枝先まで陽の光が浸透する
森樹ひかる
・我家のキャベツ 生 炒め 煮る 何でもござい芯まで甘い
太田則子
・あっぺとっぺ 思わず復唱あっぺとっぺ友と一緒にあっぺとっぺ
泉ののか
ヨガで自分を労わっていたつもりがまさかぎっくり腰に遭うなんて
大野良恵
・自分にもいづれ来る免許返納の日 見渡しても高齢の村
東山えい子
・どんなに遠くても定形郵便通八十四円で届く幸せ
杉原真理子
・床屋さんで色々人の裏話をする 自分の事は棚に上げて
鈴木和雄
・赤い橋の上からとばした石ころ孤を描いて吸い込まれて水面を揺らす
近山紘
・米子城跡へ登る後から男生徒に「お婆ちゃん頑張って」 え! 私のこと?
安田和子
・私にお手引きはない 突然繋いでK氏 恥ずかしいやらへたる
河西已惠子