会員の作品

「未来山脈」の会員の作品です。

いのち(未来山脈2023年12月号より抜粋)

季節はずれの高原は寂しい全部の空気全部吸って私は私
岡谷 三枝弓子

能登半島が怒っている 金沢中心の世間の評価に
京都 岸本和子

大阪名所 淀川上空の中秋名月 老妻とアベック鑑賞・至福
大阪 與島利彦

秋分の日 境にやっと秋の気配ウォーキングを再開する
福山 杉原真理子

何かしら心に思うことあれば人みな空を見上げて祈る
札幌 石井としえ

夏休み終盤家族に襲いかかる体調不良も子どもはあっという間に回復
流山 佐倉玲奈

岡崎城の脇の龍城神社はパワースポット若者たちが列をなす
岡谷 征矢雅子

最低賃金のパートで粘る私を苦しめる値上げラッシュ
諏訪 大野良恵

未来山脈誌の表紙絵はかつては旅館街ゆかた姿の湯田坂の面影
下諏訪 藤森静代

去年の秋バッサリ切られたさるすべり 新たな花房まばゆい深紅
岡谷 三澤隆子

バッハの曲はテェンバロが似合う 時空を超えてバロックの世界
下諏訪 長田恵子

アコギの音が脳を潤していく 鳴り続けよ満ち足りるまで
丘や片倉嘉子

こおろぎが激しく鳴くように私も寒くなる季節を待っている
岡谷 横内静子

ずっと微笑んでいる彼女の写真 その美しい人柄がまわりを清める
茨城 南村かおり

実家の曽孫ななちゃんはみんなのアイドルかわいい女の子
米子 稲田寿子

君の夢心地よく見ていた処せっかくだったのに目が覚めていた
平塚 今井和裕

マグリットの青い空 不思議な形をして浮かんでいる白い雲
横浜 酒本国武

退院決まり心はしゃぐ いや 誰とも逢いたくない自分もいる
鳥取 小田みく

うすい朱で沈む西日は老う俺だ 青年の色雲まで燃える
小浜 川嶋和雄

ふり返ればヨーロッパがユーロになる前に各国に旅をした
諏訪 宮坂きみゑ

ドッジボールの汗乾かぬまま墨を擦る 息整わず字が躍る
神奈川 別府直之

布切を引き裂いたような輝いた雲がでている十月の秋ぞら
静岡 鈴木那智

日本では海の中に母が居て フランスは母の中に海が在る
山梨 岩下善啓

在米日系三世の女性は日本語を話せない 母親が教えなかったと言う
大阪 加藤邦昭

老いは悲観を増長させる 悲観には強面の強いまなざしで
奈良 木下忠彦

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素足(未来山脈2023年11月号より抜粋)

上座敷の窓を開ける 鴨居に吊るした風鈴がからころ
岡谷 花岡カヲル

俗世の冷たい水に当たったか 胃腸薬の使用期限を確かめる
松山 三好春冥

大林宜彦の「最期の講義」未来は君らと逝く
札幌 西沢賢造

数こなしても本命が現れない一か八かの本との出会い
諏訪 大野良恵

処暑過ぎても続く真夏日 危険な暑さにげんなりする
諏訪 増田ときえ

今 香港に居るよ おじいちゃんはどこに住んでいたのかな六年間も
横浜 大野みのり

人と人 自分の考え言えるのは心理的安全性があるからだ
神奈川 別府直之

同窓会は一級建築士の同級生が企画した東京建物ツアー
茨城 南村かおり

次々と季節外れの台風 花火大会に暗雲たちこめて(長女の家族と花火見学)
原 桜井貴美代

雷鳴れど雨降らず空天気 セロリ畑の散水キラキラ
原 太田則子

花を摘んだら先客あり蜂がプンプンブンブンブン
原 泉ののか

チュルチュルルちゅるちゅるる野鳥とおしゃべり
原 森樹ひかる

心の隅に貯金したが満期になるも利子はつかず膨らむ
仙台 狩野和紀

青紫の紙風船を膨らませた桔梗ばな秋の初に咲き来る花よ
静岡 鈴木那智

雨上がりの陽が道路へと差す七月の朝 鋭い反照に素早く瞼を閉じる
伊那 金丸恵美子

苦しめど 身内なればと いとおしく 胆石四個 小瓶に遺す
東京 木下海龍

まっすぐに背筋伸ばして歩く朝 遥かな富士わらう
下諏訪 光本恵子

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太陽はいま(未来山脈2023年10月号より抜粋)

ペンギンがクジラを食らう夏空に一億人に「暑い!」と叫ぶ
神戸 粟島遥

実感のない通信費がかさむ スマホを持っているだけで
松山 三好春冥

咲き競う紫陽花の花いろいろ 重い梅雨空を押し上げて咲く
岡谷 三枝弓子

クレマチス カンパネラ 紫陽花 燕子花 ラベンダー雨の頃の花青い
諏訪 河西巳恵子

一九四五年から七十八年後の八月六日 今年も原爆死没者慰霊式が開催される
大阪 加藤邦昭

何気にめくった新聞「おくやみ欄」に友の名前…「エッ」思わず絶句
坂城 宮原志津子

白髪のショートヘアに紅いイヤリングがよく似合う 真夏の駅ホーム
富田林 木村安夜子

難攻不落の名城を隠すように要害の山から真下の集落に陽があたる
群馬 剣持政幸

こないこないよこない 金曜が過ぎる待とう月曜日
千曲 中村征子

グランドカバーのハーブ達爽やかに香る 今日から文月
福山 杉原真理子

気温五十度を超す新疆ウイグル 強制労働今もあるのか
大阪 山崎輝男

つゆ時期も雨なし霧なく自動車で 敦賀へ行きます昆布を買いに
小浜 川嶋和雄

訳の判らない電話ばかり掛けてきた若い君 私を故郷に案内してくれるという
甲府 岩下善啓

年を追うごとに強まる暑さ 猛暑酷暑炎暑 あえぎつつ生きる
奈良 木下忠彦

これ以上は老害と見定め 退社してから三度目の夏
京都 岸本和子

ひとつひとつと流れてゆくとき万灯会は都会の夜景みたいに奇麗
京都 毛利さち子

閉山の町に工場やってくる木造校舎はそのまっ先に
札幌 石井としえ

三角頭のオクラ納豆に負けないネバネバで夏の暑さを乗りきろう
米子 稲田寿子

大きさを東京ドームで言われてもよくわからない みたいな日々へ
北海道 吉田匡希

第一一八回尚徳地区敬老祝賀会三一八名に仲間入り
米子 大塚典子

つらい検査も一通り終了した 原因解かり一喜一憂
鳥取 小田みく

四月年を重ねれば月日が早い何かしようと思うだけで一日が終わる
箕輪 市川光男

iPadの暗き画面が連れてくる長方形の夜のみずうみ
埼玉 須藤ゆかり

すでに負けこして来た御嶽海が千秋楽の日は勝ててほっとした
諏訪 宮坂きみゑ

渚に出て波の音を聞く 風に吹かれながら一人で笑う
横浜 酒本国武

白雲のベールを被った蓼科山 昇る人を包んでいる
原 太田則子

カラマツの並木が続く一本道 娘と車で高原音楽堂へ
原 桜井貴美代

梅雨前線おいこしてはやぶさ号で北上する 孫の顔も雨のち晴れ
原 泉ののか

検査結果よし 気分軽やかに病院の駐車場へ
原 森樹ひかる

レクもコロナで制限だったのが戻り諺かるたをテーブル一杯に広げ
飯田 中田多勢子

コンサート曲を決める筝曲「水の変態」宮城道雄の代表作
諏訪 宮坂夏枝

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いのち(未来山脈2023年9月号より抜粋)

葦の茎みな刈り取られ上川の水はゆったり湖へとひらく
下諏訪 笠原真由美

幼と作る七夕かざり長くながく流れ星の如くゆれる
岡谷 三枝弓子

朝の散歩は気ままに電柱から次の次の電柱までと決めている
藤井寺 近山紘

コロナ禍のパンデミックを乗り越えてマスクと別れ青葉の山行く
北九州 大内美智子

夫はお酒担当 妻は賄い方 夫婦酒場の赤提灯
米子 角田次代

会ったことない仲良しの作る音はつなつに聞く流れ星たち
埼玉 須藤ゆかり

するどくてあつくてやさしい君だからいつも炎に喩えてごめん
北海道 吉田匡希

小半時を昼寝の目処に起きる午後洗濯物が竿に手招く
一関 貝沼正子

入院当時流れぬ時間にとまどう 救急車の音またひびいて
鳥取 小田みく

二年ぶりに燕が帰り雛が生まれ鴉対策をして見守る
福山 杉原真理子

ひまわり咲いたクロアチアでも咲いてくれ
埼玉 木村浩

安らかに眠るが如く君の頬その冷たさに心ふるえる
原 桜井貴美代

種を蒔いたがじれったい 落花生の頭で土をゆっくり上げ始めた
原 太田則子

足に力がなくゆっくり歩く 若者が追い抜く 世代交代の一コマ
奈良 木下忠彦

経糸緯糸くみ合せトンパタトンパタ布を織る
原 泉ののか

三泊四日の東北の旅へ 空は一面灰色の雲 その上には青空があるはず
原 森樹ひかる

鎌倉街道沿いの山の斜面に先祖利右衛門が馬頭観音の碑を建つ
岡谷 花岡カヲル

大学弓道を生で観戦したくて初めての日本武道館
諏訪 大野良恵

夏沢峠の名前に魅かれシャクナゲの中を歩いた夏の日よ
岡谷 征矢雅子

仕事 家事 散歩 盆栽 書き物 皆 一生懸命やる生きる為
大田原 鈴木和雄

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素足(未来山脈2023年8月号より抜粋)

停電のものすごい星屑 地上の明かりに隠されたありか
札幌 西沢賢造

お前ならできると父が夢枕に立ちザザザッとひけてゆく迷い
諏訪 藤森あゆ美

ニ十坪の畑に石灰と牛ふんを入れ土作りしてくれるいとこ好清さん
岡谷 佐藤静枝

見えている顔だけじゃない 三日月も昼に溶かした輪郭がある
埼玉 須藤ゆかり

一度も寝返りを打たなかった死体のように清らかに目覚める朝
諏訪 大野良恵

朝食の卵がふたご 百握りの左手に今日はよき事があるのかな
下諏訪 藤森静代

電車のキップを買う金なくて少女からもらう十円玉の愛
明石 池たかし

昔は四月で桜満開の中を蔵王からなごり雪の風情があった
仙台 狩野和紀

こんな日は寒い寒いと暖を取る凍て付くままにやがて温か
神奈川 今井和裕

家の周り飛び交う見えぬツバメ 来られぬ理由が気にかかる
岡谷 三澤隆子

越後の十日町ではタウエボチボチが咲くと田植えが始まる
岡谷 長田恵子

この頃さえずる声の主はヤマガラと知る 電線で二―二―と鳴く
岡谷 片倉嘉子

三六災害で川の流れをも変えた小渋川 今も慰霊観音が見下ろす
岡谷 横内静子

やっとたどり着いた山田牧場 冷えたきゅうりの漬物で迎えてくれた
神奈川 別府直之

G7広島サミット首脳らの並ぶ原爆ドームバックにテレビ放映
静岡 鈴木那智

大文字山へ登る 展望台から眺める都は夕日に映えて輝きを放つ
伊那 金丸恵美子

不自由な体に鞭打って今日も無事一日を終える
埼玉 赤坂友

突然目覚める ここは森の中 なぜここに居るのだろう
岡谷 渡辺昌太

鬼太郎ロードに連れられ 蟹を食べて妖怪ショップゲゲゲで店主にサインをもらう
甲府 岩下善啓

水槽みたいな夏だよねひどく呼吸がしやすくて生きるなんて感じるなんて
岡谷 今井菜々美

畦道に夏色のわすれぐさ草いきれ 物忘れがひどくなる
松本 金井宏素

鏡の内濡れて濡れない梅雨の木々 身は衰えど内新たなり
東京 木下海龍

古家のランプに止まったオナガドリ 風に揺られてゆりかごのよう
下諏訪 光本恵子

 

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太陽はいま(未来山脈2023年7月号より抜粋)

とてつもない雨まやかしの自由に浸り何処かの虹を見る
札幌 西沢賢造

日常から切り離されて白いベッドの上まな板の鯉になる手術前
京都 毛利さち子

天気下る予感 終日厳しい目眩に襲われる 季節変り目
諏訪 河西巳恵子

長崎の街は坂だらけ 自転車の数の少なさ日本一、ニとガイドさん
大阪 山崎輝男

シラバスのQRコードを読み取って頷いている学生たちに頷いている
下諏訪 中西まさこ

暖かいやら寒いやら体感温度計が不調なのか手間取る着替え
米子 角田次代

人はなぜ詠うのか なぜ詠わずにはいられないのかという問い
甲賀 中村宜之

イギリスでは羊の毛に名がありチェビオットとドネガルと言っている
諏訪 宮坂きみゑ

移転終え母の笑顔と涙見て 海の近くの病院を後にする
鳥取 小田みく

新しい居室の真ん中に遺影の吾子は微笑みぬ白い某紙の只愛し
四條畷 高木邑子

ここよここよと新緑の風を呼ぶから肉厚のましろい辛夷咲く
富田林 木村安夜子

ハコベたんぽぽ仏の座それぞれに春野を染めてゆく
福山 杉原真理子

会いたくて誰も居ない戸開ける時亡母の笑顔が待っている
下諏訪 長田恵子

川もを流れゆく花びらにたくす 悲しみを海に沈めるように
岡谷 片倉嘉子

恐竜時代に生まれた大断層めざして大鹿村へ車走らせる
岡谷 横内静子

都会を離れ男孫は明日から社会人に ささやかな祝宴
岡谷 三澤隆子

庭を色どる椿の鉢 切花を玄関にひっそり咲かせて喜ぶ
米子 三好瞳

イラーチェの工場前でふるまいのワインをペットボトルに詰める
青森 木村美映

子供らが遊ぶグラウンドの回りにはさくらの花が溢れている
横浜 上平正一

WBC世界一 神様日本に舞い降りた二〇二三年
米子 大塚典子

ねこベストに包まれてのり越えた冬 春の気配が背中に広がる
諏訪 増田ときえ

またもX線に暴かれる頚椎の痛み「四番と五番」と医師が裁く
諏訪 大野良恵

芽吹き始めた落葉松林にぽつんと椅子ひとつ 緑のシンフォニー
岡谷 三枝弓子

友が来る頃には夫の形見の牡丹が咲く 私も花も頑張っている
岡谷 佐藤静枝

若者の波に飲まれたならきっと漫才のごとくスイミーみたいになるわ
岡谷 今井菜々美

どこ見ても仰いだ空のカンバスに長い尾を引く彗星がいる
埼玉 須藤ゆかり

理性では止まらぬ追尾システムが勝手に動かしている眼球
北海道 吉田匡希

マスク生活の終わりを告げたはず 子どもの顔にはいままでどおりのマスク
流山 佐倉玲奈

五月は黒羽が一番美しい時私の庭も思い掛けない花が絶景を見せる
大田原 鈴木和雄

 

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いのち(未来山脈2023年6月号より抜粋)

やっとチョキができるようになった子 じゃんけんはチョキばかり
松山 三好春冥

つつがなく今日あるためにマスクして電車のなかの一人です
富田林 木村安夜子

古い屠蘇器と重箱 年に一度の目の正月で令和五年はじまる
米子 大塚典子

六月の月の下で柔やかに別れ話をしているふたり
横浜 上平正一

地元のアーティストの作品展 笑顔のマスク顔が競い合う
米子 角田次代

不幸な人生だった でもこれも主が不幸な人の気持が分かるようにと
つくば 辻倶歓

ひとりふたりと巣立ってゆき手狭だった部屋には春風吹き込む
諏訪 藤森あゆ美

半年の社畜で塞がった穴にピアスをとおす 自分に戻った気がする
甲府 岩下善啓

ひと月かけて咲き満ちてゆく梅の花 吾は今何分咲き
福山 杉原真理子

八十四年前亡母は初産私は逆児引っぱり出されて右足脱臼して出生
飯田 中田多勢子

講師はしなやかにゆるやかに弧を描き悠久の空気漂う
岡谷 片倉嘉子

諏訪湖を源とする天竜川 流れに沿いながら一路佐久間ダムを目指す
岡谷 横内静子

とり囲む枯葉を後目に咲き始めたクリスマスローズ 春を呼ぶ
岡谷 三澤隆子

春雨に満開なり桜木もしっぽりと濡れ人無き公園
静岡 鈴木那智

七十からは生かされるのだ生かされて学ぼうと夜間学校だった
大阪 花菜菜菜

あぁラクチン 炬燵にもぐり洗濯機の回る音を聞いている
千曲 中村征子

馬拉糕の穏やかな甘さ増えてゆくのは極端な事件ばかりで
京都 毛利さち子

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素足(未来山脈2023年5月号より抜粋)

日髙のり子プレミアムトークを聞き声優を夢見た若き日を思い出す
岡谷 花岡カヲル

神の田の稲穂の波は黄金の如神宮の森を明るく照らす
さいたま 清水哲

寒さも和らぎ一気に花々が開花とともに訪れる花粉症 目も花もむずむず
流山 佐倉玲奈

十年に一度の大寒波 明日の仕出し料理の心配をしている
鳥取 小田みく

まだ二月の庭は温かそう太陽が 部屋はストーブもっと暑いぞ
小浜 川嶋和雄

被爆した父を探して歩く道 血豆噴く足 渇ききる喉 四歳の夏
東京 相川千恵子

今日はつりでもしよう何がつれるかな? よ! つれた あれ? これは魚じゃなくて人魚だ
岡谷 渡辺昌太

四万十川の味知り尽くしたうなぎ通の漁師がわれに風味くださる
明石 池たけし

笑い声耳でころころ鳴っていて好きだったって光る残像
埼玉 須藤ゆかり

自由を求めるのなら両手を空に高く上げる瞬間が最高潮
仙台 狩野和紀

雪国にきてバイト仲間とスノボ楽しむ ここもう少しの間 春遠し
東京 下沢統馬

イタリアからイスラエルに入る「嘆きの壁」に向かい祈る人たち
横浜 大野みのり

また今日も「能登で地震」のニュース速報 すぐにでも行きたいのに…
京都 岸本和子

猫といて猫の毛ふわふわギュッと抱く 夫婦の透き間におだやかな夜
富田林 木村安夜子

雪原を列車の窓から眺めつつ友と語らい心は青春
原 桜井貴美代

雪の道キツネの足跡は迷路のごと目で追いながら心を読む
原 太田則子

あっ があぁんお茶を撒き散らす怒っているのは膝小僧
原 泉ののか

歌手クミコ聴講券を申込み友人四人で飯田線に乗って駒ヶ根へ
原 森樹ひかる

「巡礼者は前へ!」と司祭に促され祭壇前に並ぶ二十時
青森 木村美映

まさかの訃報 本当にヤバいやつだって志村さんが教えてくれた
神奈川 別府直之

リヤカーでランプを売るおじいさん シベリヤ還りの人と言う
甲府 岩下善啓

巷で噂のメンヘラ教祖 お前よりも私のおっぱいの方が奇麗だ
岡谷 今井菜々美

夫婦の旅の目的はこの目と足で確かめ触れて喜べることだった
諏訪 宮坂きみゑ

天地創造 白壁に飛び散った赤土 春泥が固まって来た
松本 金井宏素

桜散る土手の細道寄り添いて八十路の果ての影二つ
東京 木下海龍

呪いは血に呪いは家に受け継がれそのどちらをも私で絶やす
北海道 吉田匡希

ぽろんぽろん奏でる夢のつづきピアノの意思か手は添えるだけ坂本龍一逝く
下諏訪 光本恵子

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太陽はいま(未来山脈2023年4月号より抜粋)

縦 確認、横 確認、斜めよし さあオセロの駒返す瞬間
諏訪 河西巳恵子

寂しいネ話の出来ない日もあると一人暮らしの要介護4の世界
藤井寺 近山紘

深夜の静寂を駆け上がる足音 夫は動揺隠さず母親の死を告げる
諏訪 大野良恵

おもくゆるく白鳥の影過ぎりゆく夕暮の橋渡る頭上を
一関 貝沼正子

せっかく浮かんだ短歌が思い出せない頭のどこかに有るはずだが
市川光男

「わっ爺さんだ」「わっ婆さんだ」視野の中には夫だけ
鳥取 角田次代

ライオンハートの王と呼ばれたリチャードを幽した城 今は廃墟に
下諏訪 中西まさこ

おいでなすったか猿 ハウスへ入ると椎茸を食べ散らした跡
福知山 東山えい子

〈まっとうに生きているだけ〉で生きている意味が有る それを信じて
つくば 辻倶歓

久し振りに娘一家が来宅夫の背を越した孫は顔にはニキビが出て
米子 安田和子

電飾を外した並木を撫でてゆく瀬戸の潮風師走の光
福山 杉原真理子

「今年は南天の実の付きいいね」と夫 私は枝を透かせる
岡谷 横内静子

茜色の雲を背に富士山ずっしりと 仰ぎ見る夕映え
岡谷 三澤隆子

山の端の雲が銀白色に輝きまわりを熱くして初日昇る
岡谷 片倉嘉子

四年に一度の洗礼を満開の桜は何を思ったか狂い咲く
群馬 剣持政幸

大雪がもたらした珍風景 コーヒーすすり眺めるだけの老ふたり
下諏訪 藤森静代

よろよろと歩道をわたる幼へび冬眠わすれたか師走の雨に
横浜 上平正一

きれいな生き方ってどんなだろう 寒風に視られて想う
富田林 木村安夜子

ひとり増え孫中心の正月は久し振りの我が家の“おめでとう”
北九州 大内美智子

下火になりつつあるコロナ 日常生活への期待がふくらむ
諏訪 増田ときえ

あの朝何を思って目覚めたか 何のための目覚めか 夜になり道を歩いてみた
岡谷 渡辺昌太

今年が最後という賀状が増えた 時代の流れ化疎遠になるな
大阪 山崎輝男

八十路になって一人きりの新年 孤独に負けるなと宙の声
奈良 木下忠彦

日陰に残るクリスマス寒波の根雪 しっとり降る小寒の雨にとける
岡谷 三枝弓子

「皆既月食」「天王星食」神秘的な赤銅色の月がぽっかりと秋の夜半
伊那 金丸恵美子

今朝は零下十度諏訪湖は全面結氷 郷人は御神渡りを期待する(一月二十日)
岡谷 花岡カヲル

もう二月か の後にまだ何もやってないと続き さあどうする私
愛知 川瀬すみ子

小屋暮らしをする人のユーチューブ 自分にも出来そうだな
山梨 岩下善敬

世界中を歩いた夫と私 紺碧のジブラルタル海岸でカンツョーネを唄う
諏訪 宮坂きみゑ

木立の中を汽車が少し見えてくる 旅立つ姉が窓から手を
木曽 吉田鏡三

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いのち(未来山脈2023年3月号より抜粋)

夢がいっぱい詰まった顔の女子マネが高校時代の娘とだぶる
米子 大塚典子

急な坂道乗り越えて新しい道を駆け上がるランナーそこに私もいる
群馬 剣持政幸

太陽にそっと伝えた新年の夢 いのちある内に自分史練る
福知山 東山えい子

ピアノ教室に通ってまだ一年 無謀にもピアノコンサートに参加する
大阪 加藤邦昭

赤銅色の月が暗闇に希望という光を放つ 徐々に徐々に
岡谷 三枝弓子

まぼろしのごとく無音で雪は降り悔恨として地につもりゆく
下諏訪 笠原真由美

正月も三日になって窓見れば こぼした砂糖か屋根には雪が
小浜 川嶋和雄

年賀状卒業宣言あの人はお元気でしょうか風がささやく
大阪 花菜菜菜

言葉を吐いて紡ぐ短歌 今日も生きてるって自分に言う
富田林 木村安夜子

殉教のヤコブは七日後ガリシアに流れ着いたと星のお告げは
青森 木村美映

小さくなった父の背に 親不孝ばかりと娘のひとりごと
鳥取 小田みく

常緑樹と紅葉のコラボで山頂から見る下界はまるで絵の様
米子 安田和子

トースター音たててパン焼く匂いする今朝も我が家の生活リズムを刻む
静岡 鈴木那智

年末年始に一週間こもるこの機にぜひとも断捨離やってみたい
牛久 南村かおり

赤いトタン屋根のましろな霜が朝陽に輝き出す瞬間がすき
岡谷 片倉嘉子

中央道から見る富士の形状 きっと神様が造ったんだ
岡谷 横内静子

蜂蜜に似た匂いふっと思わず立ち止まる カーポートには柊の花
岡谷 三澤隆子

たそがれの諏訪湖畔に立つ女高生 瞳は湖の光を返す
さいたま 清水哲

暮れ近く詩吟の大先輩K氏から「畑で取れた」と大きな長芋届く
岡谷 花岡カヲル

遠方の施設を結ぶズーム音楽会 これが今風コンサート
大阪 山崎輝男

しおまち商店街を歩けば昭和の匂い 時の流れが心地よい
福山 杉原真理子

寒さもいよいよ容赦なく染み込んでくる裏起毛の肌着が恋しく
藤井寺 近山紘

いよいよ推しに会える日 まるで遠足前日の子供のような私
流山 佐倉玲奈

銀色の三角が連なって風になびくよ荒れ地で枯れた泡立草の群れ
京都 毛利さち子

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